科研費の大幅増 改革への第一歩にしたい『西日本新聞』社説2010年12月26日付

『西日本新聞』社説2010年12月26日付

科研費の大幅増 改革への第一歩にしたい

 雨降って地固まる-か。昨年の事業仕分けで、現行政刷新担当相の蓮舫参院議員が「世界一でなければならないのか」とスーパーコンピューター開発に厳しい姿勢を示したが、その科学振興関連予算に明るい兆しが見え始めたのだ。

 政府は来年度予算案で、大学研究者らに助成する科学研究費補助金(科研費)を本年度予算より230億円増の2230億円とすることを決めた。制度が始まって以来、最大の増額規模という。

 文部科学省は夏の概算要求で、科研費ついて本年度より100億円増としていた。厳しい財政状況のなか、要求を上回る極めて異例の予算措置といえよう。

 ノーベル化学賞の日本人2人受賞や、幾多の苦難を乗り越えての小惑星探査機「はやぶさ」の帰還など、相次いだ科学関連の大型ニュースが、科学への逆風を追い風に変えたことは間違いない。

 政府の政策コンテストでも、予算確保の要望が集中していた。

 さらに、予算運用が弾力的になることも注目したい。これまでの科研費は用途が制限されたうえ、年度ごとに原則使い切る必要があった。国や地方自治体の予算が、会計年度の1年間で収支を保つ単年度主義を原則としているためだ。

 現在も研究計画の変更などで国に申請すれば予算を翌年度以降に持ち越すことはできたが、事務作業に手間がかかり研究者に不評だった。このため、科研費の一部(314億円)を新たに基金化し、翌年度への繰り越しを可能にする。

 世界をリードする最先端の研究を支援する「最先端研究開発支援プログラム」の研究費は多年度での運用が可能で、この手法を科研費にも適用した。科研費の抜本的制度改正は初めてで、研究者には使い勝手の良い補助金となる。

 当然、研究者や大学関係者は今回の措置を歓迎する。その一方で、国際社会でも地盤沈下が著しい日本の現状を憂慮して、技術立国にふさわしい科学振興の抜本的な改革を訴える声も少なくない。

 国際経営開発研究所(スイス)の国際競争力ランキングによると、約20年前には1位だった日本は、次第にシンガポールや中国、台湾、韓国などに抜かれ、今年は27位だった。急成長する中国には2007年に論文数で抜かれ、博士号取得者数も06年に3倍近くまで離された。

 ある大学の理系教授は「ノーベル賞級の仕事は失敗から生まれるが、今の日本は確実に成果が挙がりそうな研究の支援が中心。これでは多様な研究者は育たない」と訴える。その通りであろう。

 科学技術予算の拡充に意欲を見せた理系出身の菅直人首相は自ら指示し、科研費を含む来年度政府予算の科学技術振興費も修正して、本年度より増額した。

 資源に乏しいわが国で、科学技術は経済成長の生命線でもある。長期的視点に立った施策や投資を行い、本当の意味での科学振興の地盤を固めるため、今回の措置を改革への第一歩ととらえたい。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com