特集:11年度予算案 借金歯止めかからず 家計支援は大幅後退(その1)『毎日新聞』 2010年12月25日付

『毎日新聞』 2010年12月25日付

特集:11年度予算案 借金歯止めかからず 家計支援は大幅後退(その1)

 ◇債務残高891兆円 「赤字半減」達成遠く

 11年度政府予算案は、新規国債の発行額が税収を2年連続で上回り、借金頼みの苦境を浮き彫りにした。民主党政権の発足後、2回目の当初予算編成となったが、目玉政策としていた「事業仕分け」による財源捻出は不発。「政治主導による予算の大幅組み替え」をうたった特別枠も看板倒れに終わった。「埋蔵金」もほぼ枯渇し、高齢化に伴って社会保障費が膨らむ中、消費増税を含む税制抜本改革が待ったなしの課題として突きつけられている。

 11年度は、政府が今年6月に策定した中長期的な財政健全化計画「財政運営戦略」の初年度に当たる。政府予算案は戦略の定めた財政運営ルールに従って、国債発行額をほぼ前年度並みの44・3兆円に抑えた。だが、国債発行額が税収を上回る事態が続き、国・地方を合わせた債務残高は11年度末で891兆円(国は668兆円)と10年度末に比べ23兆円拡大する見通し。借金膨張に歯止めがかからない。

 民主党政権で財政健全化計画に基づき予算が策定されるのは今回が初めて。財政運営戦略は「基礎的財政収支(国と地方の合計)の赤字を15年度までに対GDP(国内総生産)比で半減させ、20年度までに黒字化させる」としている。国のみの11年度予算案で見ると、同収支の赤字は22兆7489億円となり、10年度(23兆6539億円)から9000億円程度改善された。

 だが、この程度の改善幅では15年度までの赤字半減目標に遠く及ばない。財政運営戦略は「21年度以降に国と地方の債務残高を対GDP比で安定的に低下させる」との目標も定めているが、11年度は184%と10年度の181%から悪化した。先進7カ国(G7)では最悪の水準で、財政危機に陥ったギリシャ(10年度で129%、経済協力開発機構の予測)を大きく上回る。

 財政再建が前進しない背景には、政府が当面3年間の財政枠組みとして定めている「中期財政フレーム」の目標設定が緩いことがある。10年度予算をベースに「新規国債発行額は44兆円以下、基礎的財政収支対象経費は71兆円」というたがをはめているが、いずれも過去最高の水準。11年度予算は対象経費、国債発行ともに目標の範囲内に収めたものの、借金が積み上がる構図には変わりがない。

 現状の制度のままでは社会保障費が今後も年1兆円以上増え、歳出や国債発行額を大幅に削減するのは困難。財政健全化計画の達成には、消費税増税を含む税制抜本改革の実現が政府にとって最大の課題になる。【久田宏】

 ◇国債、過去最大169兆円 個人向け、「10年」の金利見直し

 財務省が24日発表した11年度の国債発行計画によると、過去の借金の返済に充てる借り換え債などを含めた発行総額は、10年度当初比7兆1804億円増の169兆5943億円と3年連続で増加した。景気回復を受けて税収は増加に転じるものの、一般会計の歳出総額が過去最大となったため、当初予算としては10年度に続き、税収を上回る新規国債発行を見込み、発行総額も過去最大となる。

 11年度末の国債発行残高は、10年度末比26兆円増の668兆円となり、過去最悪を更新する見通し。国の一般会計の税収(約41兆円)の16年分に相当し、国民1人当たりに換算すると、前年より24万円増え、約524万円となる。国と地方の長期債務残高は891兆円に達する見通し。

 また、金利低下で低迷している個人向け国債の販売をテコ入れするため、10年国債の金利設定方式を見直す。現状の市場金利(年1・2%程度)だと、現行方式では年0・4%程度だが、新方式だと年0・8%程度に金利が上昇するため、個人投資家の国債購入を促すのが狙い。ただ、市場金利の上昇時には、現行方式よりも金利が低く算出されることになる。【清水憲司】

 ◇仕分け効果薄れる 歳出削減3000億円、判定無視相次ぐ

 政権交代を機に鳴り物入りで始まった政府の行政刷新会議による「事業仕分け」は、今年春・秋に独立行政法人(独法)や公益法人、特別会計(特会)などを対象に第2、第3弾の作業を実施した。ただ、11年度予算での歳出削減効果は約3000億円どまり。独法の利益剰余金などで約1・4兆円の「埋蔵金」を発掘したが、これはあくまで一時しのぎの財源に過ぎず、仕分けの無駄削減効果の限界を露呈した格好だ。

 民主党は昨年の衆院選マニフェスト(政権公約)で、特会も含めた国の総予算207兆円を大幅に組み替え、無駄削減によって9・1兆円の財源を捻出すると宣言した。無駄削減の「切り札」として仕分けを導入したが、10年度予算での歳出削減額は概算要求段階の削減などを含めても2・3兆円にとどまった。

 このため菅直人首相は財務相だった今年1月の会見で、無駄削減について「今年こそが正念場」と表明。仕分けで特会や独法などの事業に切り込んだが、歳出削減効果は約3000億円に過ぎず、前年を大きく下回った。

 一方、仕分けで指摘された埋蔵金では、国土交通省所管の独法「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」が利益剰余金(10年度末で1・5兆円)のうち1・2兆円の国庫返納を決定。財務省所管の公益法人「塩事業センター」も過大資産とされた404億円を返納する。しかし、埋蔵金の活用は1回限りで、財源不足に苦しむ財政を支えるには力不足だ。

 仕分け判定を無視するような予算付けも目立った。民主党の政務三役が要求した予算を、同党の仕分け人らが削減を求めることの難しさがあり、仕分けの意義が改めて問われそうだ。【寺田剛】

 ◇特別枠総額2.1兆円、目立つ従来型 新成長戦略関連0.9兆円

 民主党の掲げる「予算の大幅組み替え」を実現しようと、11年度予算編成で政府は「元気な日本復活特別枠」を設け、2・1兆円を配分した。だが、中身を見ると従来型の事業が目白押しで、大幅組み替えには至らなかった。

 特別枠は、経済成長や雇用拡大を目指す「新成長戦略」関連の事業を増やすのが狙い。各省に対し「11年度予算の概算要求を前年度比1割以上削減する」よう求め、浮いた財源のうち「1兆円を相当程度超える額」(当初想定は1・3兆円)を充てることにしていた。

 各省は特別枠向けに計189事業、総額2・9兆円を要望。事業の優先順位を付ける「政策コンテスト」を一部公開で実施するなど、玄葉光一郎国家戦略担当相を中心に、政治主導をアピールしながら絞り込みを続けていた。

 ところが、各省は削り込みの難しい既存事業を特別枠にぶつけてきた。象徴的なケースが、防衛省の「在日米軍駐留経費負担」(思いやり予算)。査定側の財務省は「特別枠で出てくるとは思わなかった」(野田佳彦財務相)、「特別枠の意図通りに要望が出ていない。想定外の代表選手が思いやり予算」(桜井充副財務相)と嘆いたが、「日米同盟に揺らぎが生じてはいけない」(玄葉氏)ことから政策コンテストでは最優先の「A判定」に。予算額もほぼ満額の1858億円を計上した。

 文部科学省の求めた「35人学級」では、小学1年生への導入が決まり、2085億円を計上した。しかし、この中には従来の40人学級に必要な教員の人件費2035億円も含まれ、35人学級のための予算はわずか50億円に過ぎない。

 結局、思いやり予算や人件費など、削りにくい従来型の事業への予算配分が相次いだため、特別枠は2兆円を突破。特別枠以外の予算を削って、基礎的財政収支対象経費全体は目標の71兆円以下に収めたが、特別枠のうち、民主党のマニフェスト(政権公約)と「新成長戦略」関連の施策は約0・9兆円にとどまり、菅カラーよりも古色の目立つ結果になった。【谷川貴史】

 ◇国家公務員、人件費3%減

 国家公務員の人件費は前年度比190億円減の5兆1605億円が計上された。定員は2480人(0・4%)減の56・1万人。民主党は衆院選マニフェストで「国家公務員の総人件費の2割削減」を掲げたが、政権交代前につくられた09年度当初予算(5兆3195億円)比約3%の削減にとどまっている。

 公務員の平均年間給与の「1・5%引き下げ」を求めた人事院勧告の実施や定員減少により、「給与費」は、前年度比406億円減の3兆7642億円。ただ、「団塊の世代」の大量退職に伴い退職手当は同174億円増の4148億円となった。一方、地方公務員は定員を2・6万人(1・1%)減の235・1万人としたことで、人件費は約4000億円減少する見通し。【青木純】

 ◆防衛
 ◇思いやり予算はほぼ満額1858億円

 総額は前年度当初比0・3%減の4兆7752億円。6年ぶりに改定された「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と、今後5年間の防衛費総額を約23兆4900億円とする中期防衛力整備計画(中期防)に基づき、ほぼ横ばいとなった。

 政策コンテストにかけられる「特別枠」に計上した在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は、現行水準を維持するとの日米合意に基づき、ほぼ満額の1858億円が認められた。前年度からは23億円減。米海兵隊のグアム移転に伴う下水道などインフラ整備支援のため、現地で融資を手がける国際協力銀行(JBIC)への出資分370億円も盛り込んだ。【坂口裕彦】

 ◆外交
 ◇11年ぶりにODA増額

 政府全体の政府開発援助(ODA)予算は5727億円と前年度比7・4%減になったが、途上国向けの無償資金協力や技術協力、国際機関への分担金・拠出金など外務省所管のODAは、同0・9%増の4170億円と11年ぶりに増額。人道や平和構築など国際貢献での役割が重視された。外務省全体の予算は同4・7%減の6262億円とされた中で、アフガニスタンやアフリカ向け予算を確保するなど「選択と集中」を実施した。【犬飼直幸】

 ◆地方財政
 ◇交付税4年連続増 統一選配慮

 国から地方自治体に配分される地方交付税の総額は、前年度比4800億円増の17兆3700億円と4年連続での増額となった。地方の財政難に加え、来春の統一地方選をにらみ、地方側への配慮を示す狙いがある。

 特例交付金を合わせた一般会計から交付税特別会計への繰り入れは、同6900億円減の16兆7800億円と5年ぶりに減少したが、10年度の税収上ぶれ分などを活用して実際の配分額は増やした。

 地方が自由に使える一般財源総額は、59兆5000億円と同900億円増。地方税・地方譲与税は35兆5800億円と1兆1500億円増で、財源不足額は縮小する見通し。【笈田直樹】

 ◆環境・エネルギー
 ◇地球温暖化対策、家庭向けを強化

 環境分野では、12年で期限が切れる京都議定書以降の地球温暖化対策の国際枠組みをにらみ、国内対策の強化を図る。

 特に温室効果ガス排出量の増加傾向が続いている家庭への対策を進めるため、省エネ機器の家庭・事業者向けリース事業補助金に20億円を計上。「低炭素社会」のモデル地域づくり事業には30億円を充てる。

 エネルギー関連では、太陽電池やエコカーなどの低炭素製品のうち、世界最先端の二酸化炭素(CO2)削減効果を持つ製品向けの設備投資支援に71億円を充てるなど、産業・民生部門への省エネ設備導入支援に計578億円を計上した。【江口一、増田博樹】

 ◆科学技術
 ◇減額方針が一転、首相指示で微増

 科学技術振興費は、前年度比18億円(0・1%)増の1兆3352億円の微増となった。財政当局は2年連続で減額の方針だったが、最終盤の22日、菅直人首相の増額指示で組み直した。小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や日本人2氏のノーベル賞など科学ニュースが話題の一年となり、科学技術を成長の「エンジン」と位置づける姿勢を示した。【山田大輔】

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 ◆11年度一般会計歳入・歳出概算◆
 (単位・億円。増減額と伸び率は前年度当初比。▼はマイナス。-は該当なし。1億円未満は四捨五入のため合計と合わないことがある)

 【歳入】           11年度概算額     増減額 伸び率(%)
税収              409,270         35,310    9.4
税外収入            71,866    ▼34,136  ▼32.2
国債              442,980        ▼50  ▼0.0
合計              924,116       1,124   0.1

 【歳出】
社会保障関係費        287,079        14,393     5.3
文教・科学振興費         55,100          ▼772   ▼1.4
国債費              215,491          9,000    4.4
恩給関係費              6,434          ▼710   ▼9.9
地方交付税交付金等    167,845        ▼6,932   ▼4.0
防衛関係費           47,752           ▼151  ▼0.3
公共事業関係費        49,743         ▼7,987 ▼13.8
経済協力費            5,298          ▼524  ▼9.0
中小企業対策費         1,969             58   3.0
エネルギー対策費        8,559            139   1.7
食料安定供給関係費     11,587            ▼25  ▼0.2
その他の事項経費       55,660           3,717   7.2
経済危機対応・地域活性化予備費   8,100  ▼1,900 ▼19.0
予備費               3,500       0   0
08年度決算不足補てん繰戻         -  ▼7,182   -
合計              924,116   1,124   0.1

 ※公共事業関係費は地方への一括交付金として他の項目に計上された分を含むと▼5・1%

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