国債発行44兆2980億円で「国際公約」は順守=11年度予算案 ロイター通信配信記事 2010年12月24日付

ロイター通信配信記事 2010年12月24日付

国債発行44兆2980億円で「国際公約」は順守=11年度予算案

[東京 24日 ロイター] 政府は24日夕の臨時閣議で2011年度当初予算の政府案を決定した。一般会計総額は10年度当初比1124億円増の92兆4116億円となり、当初予算ベースで過去最大となった。

 政策経費である一般歳出と交付税の合計(歳出の大枠)は70兆8625億円で「財政運営戦略」で定めた10年度当初予算並みの71兆円以下をかろうじて下回った。税収は10年度に比べ3.5兆円程度増えるが、「子ども手当」の拡充などのマニフェスト事項や成長戦略分野で予算を増額する結果、新規国債発行額は44兆2980億円と10年度当初比50億円減にとどまった。政府が財政健全化の指針として閣議決定し、事実上の国際公約となった「44.3兆円以下」をかろうじて守ったが、「埋蔵金」による税外収入で歳入の穴を埋めるいびつさは10年度と変わらず、当初予算ベースで、新規国債発行額が税収を上回る異常事態が2年続いている。 

 民主党政権でゼロから手掛けた初の予算編成は、成長と雇用を重視した新成長戦略の実施と財政規律の両にらみとなるなか、実態は「歳出の大枠71兆円」と「国債発行44.3兆円以内」を目標に帳尻あわせに終始した。歳出や国債発行に一定の歯止めをかけているが、安定財源がなければ民主党が掲げるマニフェスト事項の実施が難しい状況が浮き彫りになった。 

  <社会保障関係費5.3%増の過去最大、公共事業関係費は削減> 

 歳出の大枠(基礎的財政収支対象経費)は10年度比694億円減の70兆8625億円となった。最も金額が大きい社会保障関係費が、高齢化に伴う自然増に加え、民主党マニフェストの目玉政策である「子ども手当」を拡充する結果、10年度比5.3%増に膨らむ。金額で過去最大の28兆7079億円となり、従来の区分でみた一般歳出の半分を超える。 

 このほかの主要経費では、中小企業対策費、エネルギー対策費が増加。当初削減する方針だった科学技術振興費が菅直人首相の意向で10年度とほぼ同規模に上積みされた。一方で、公共事業関係費は実質10年度比5.1%削減となった。一方、予算の組み替えで成長戦略などに重点配分する「元気な日本復活特別枠」は当初想定していた1兆3000億円から2兆1000億円に膨らんだ。 

 他の歳出項目では、国債費が、想定金利を概算要求段階の2.4%から2.0%に引き下げたことなどに伴い、概算要求段階の24兆1321億円から21兆5491億円に圧縮された。10年度比では9000億円増となる。地方交付税交付金は一般会計ベースでは16兆7845億円。10年度比6932億円の減少となるが、地方に配分される地方交付税総額(特会出口ベース)では同4798億円増の17兆3734億円とした。国の財政事情は厳しいが「一番苦しんでいる地方に十分配慮した」(野田佳彦財務相)。 

 マニフェスト関連では、「子ども手当」を3歳未満に限定して月額7000円を加算する。必要経費2000億円は成年扶養控除や給与所得控除の見直しで手当てするが、税制改正による初年度の増収分が小幅なため、雇用確保や地域活性化などを目的に10年度に新設された「経済危機対応・地域活性化予備費」の計上分を削って充てる。民主党政権2年目で、マニフェストで掲げた1人あたり一律月額2万6000円支給の限界も浮き彫りになった。 

 <税収と国債発行の逆転は2年連続、税外収入頼み続く> 

 歳入面では柱となる税収が、企業業績の持ち直しを反映して、10年度当初比3兆5310億円増の40兆9270億円を見込む。3年ぶりに40兆円台を回復する。しかし、マニフェスト関連の歳出が膨らみ、新規国債は10年度とほぼ同額の44兆2980億円発行する。政府は6月の「財政運営戦略」で定めた新規国債発行額を「約44兆円以内」に抑える目標を達成するため、いわゆる「埋蔵金」で財源をねん出。税外収入は特別会計の余剰金などで7兆1866億円を確保した。

 税収を上回る国債発行は当初予算ベースでは2年連続。国債発行の大半を占める赤字公債が過去最大の38兆2080億円で、建設公債の6兆0900億円をはるかに上回った。 

 税外収入のうち、主なものでは、財政投融資特別会計から、積立金の全額(1000億円)と10年度に生じる剰余金の全額(1兆円)の計1.1兆円を一般会計に繰り入れる。また外国為替資金特別会計から10年度の剰余金の全額(2.7兆円)のほか、2011年度分の剰余金(0.2兆円)の計2.9兆円を活用する。進行年度の剰余金の先食いで歳入の穴埋めを行う綱渡りが続いている。

 また、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)」の利益剰余金1.5兆円のうち1.2兆円も活用。

 いずれも、基礎年金の国庫負担割合2分の1維持のために充てる。国庫負担割合引き上げを決めた04年の国民年金法改正では、引き上げの際には「安定的な財源確保」を前提としており、消費税を含む抜本税制改革の実施が不可欠の情勢となってきた。野田財務相はこれまでの記者会見で今回のような臨時措置はもはや限界であり、2012年度以降の消費税を含む抜本税制改革の実施に強い決意を示している。 

  <公債依存度47.9%、国・地方の長期債務残高は900兆円に迫る> 

 国債の大量発行に伴って2011年度の国・地方の長期債務残高は891兆円程度と900兆円に迫る。対国内総生産(GDP)比では184%に上昇する見通し。 

公債依存度は10年度とほぼ同水準の47.9%。国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は22.7兆円の赤字で、10年度補正後の24.1兆円の赤字からわずかに赤字幅は縮小した。

  <予算関連法案の行方に不透明感、特例法が成立しなければ44%の財源確保が困難に> 

 11年度予算案は隋所にやりくりがみられる綱渡りの編成だった。政府は来年の通常国会に同予算案を提出し年度内成立を目指す。しかし、問題は、ねじれ国会で、予算の裏づけとなる税法や特例公債法など予算関連法案の成立が不透明なこと。マニフェスト事項の撤廃を主張し「会計間の安易な付け替え」を批判する野党の反発は必至だ。 

 予算案が成立しても、予算の裏づけとなる財源が確保されない事態になれば、足踏みが続く日本経済へのダメージは大きい。財務省幹部によると、一般会計92.4兆円のうち、44%が特例法が成立しなければ財源確保が出来ないという。菅首相の政治決断だった基礎年金の国庫負担割合2分の1維持も、財源確保法や国民年金法改正案が来年3月末までに成立しなければ「年度当初から予算の執行が困難になる」(財務省幹部)。問題山積のなか、来年は年初から菅政権にとって正念場の年となりそうだ。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com