法科大学院 地方は苦境 九州も志願者減、合格率平均以下 文科省、低迷校の助成縮小へ 「司法過疎」進む懸念『西日本新聞』2010年11月22日付

『西日本新聞』2010年11月22日付

法科大学院 地方は苦境 九州も志願者減、合格率平均以下 文科省、低迷校の助成縮小へ 「司法過疎」進む懸念

 文部科学省が2012年度から、入試倍率や司法試験合格率が低迷する法科大学院への補助金削減を決定したことを受け、地方の大学院が存廃の岐路に立たされている。九州の6大学院はそれぞれ独自色を出した教育を行ってきたが、九州大を除く5校の合格率は全国平均の25・4%(10年度)を下回るなど苦戦を強いられている。 

 ◆偏在化する定員

  「そもそも制度設計が無策。個々の努力ではどうにもならない」と訴えるのは、久留米大法科大学院の西嶋法友院長。 

 現在、法科大学院は全国で74校あり、適正規模とされる20―30校を大きく上回る。文科省は08年から各校に入学定員の削減を要請。九州の6大学院もこれまでに定員を8―20人減らしたが、関東・関西の大学院が総定員数(約4900人)の7割以上を占めているのが実態という。 

 同校は今年から、定員を40人から30人に削減。地元弁護士会と連携した少人数教育に力を入れてきたが、09年度から2年連続で入試倍率が2倍を切り、合格率は10%台に低迷。文科省から「重点的な改善が必要な大学院」に指定され、苦境に立たされる。 

 西嶋院長は「これ以上定員は減らせない。大規模校の定員を優先的に減らし、公正な競争環境を整備して」と要望する。 

 ◆実態は変わらず 

 「新試験は旧試験のモデルチェンジにすぎない」。熊本大法科大学院の橋本眞・法曹養成研究科長はこう指摘する。

  新司法試験は幅広い人材に法曹家への門戸を開く目的で導入されたが、法学部出身の既修者が有利な状況は変わっていない。10年度試験では既修者の平均合格率が37%だったのに対し、社会人や法学部以外の未修者は17%にとどまる。 

 ほとんどの地方大学院では未修者を対象にした3年コースが中心。ところが、首都圏や関西の成績上位校の多くは、制度では例外であるはずの既修者対象の2年コースに力を入れているという。 

 橋本科長は「未修者の合格率だけをみれば、上位校とそれほどの差はない。都会と地方では大きく事情が違うのに、数字だけで評価するのはおかしい」と批判する。 

 また志願者の確保を不安視する声も上がる。2年連続で入試倍率が2倍を下回った福岡大法科大学院は「全体の志願者が減り続ける中、2倍以上の倍率を維持するのは難しい」と懸念する。 

 ◆生き残りに不安

  今回の決定について、文科省は「成績低迷校の廃止を迫るものではない」と強調するが、乱立する大学院を統廃合させたい意図が見え隠れする。 

 今回、取材に応じた各大学院は「もともとが赤字経営。補助金が削減されても廃止することはない」とする。ただし、「成績低迷校のレッテルが張られたら大きなイメージダウン。将来的には廃止の可能性もある」と、今後の存続を危ぶむ声もある。 

 一方、ほかの3大学院は「何も答えることはない」(鹿児島大)とコメントしたのみ。取材には応じず、文科省の決定に反論しにくい事情もうかがえた。 

 全国をみると、5年間で合格者が3人しか出なかった姫路独協大(兵庫)が11年度から募集を停止するなど、地方の法科大学院を取り巻く環境は厳しい。来年からは法科大学院の修了資格が得られる予備試験が始まり、志願者のさらなる地方離れも予想される。 

 九州弁護士会連合会の当山尚幸理事長は「地方の大学院には『司法過疎の解消』という重要な役割がある。教員の派遣のほか財政的な援助を行い、立ち直りのチャンスを与えるべきだ」と話している。

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