パブリックコメント/安易な依存で民意見失うな『河北新報』社説2010年11月24日付

『河北新報』社説2010年11月24日付

パブリックコメント/安易な依存で民意見失うな

 国、地方自治体を問わず、政策や事業の意思決定過程で、住民の意見を募るパブリックコメントを取り入れるケースが目立っている。

 国を手始めに都道府県や比較的規模の大きい都市など、急速に広まった。従来も意見公募の仕組みはあったが、郵送などが主体だった。パブリックコメントはインターネットやメールを活用するのが特徴。不特定多数の声を幅広く集めやすいという利点は確かに大きいが、民意を測る手段として安易に頼り切ってはいけない。

 問題点は、政府が2011年度予算に設けた「元気な日本復活特別枠」の配分を公開手続きで決める「政策コンテスト」でも顕在化している。

 1兆3000億円の特別枠に対し、各府省が要望した総額約2兆9000億円の189事業が対象となり、パブリックコメントは優先順位を付ける作業の基礎的資料と位置付けられた。

 3週間の受付期間中に寄せられた意見は36万2232件に上った。内訳を見ると、文部科学省関係が28万件以上と8割近くに達し、事業別でも上位8位までを独占した。

 背景には、関係者の集中的な取り組みがあったとみられている。特に、大学財政の土台となる運営費交付金や研究基盤強化のプロジェクトが対象事業に組み込まれた国立大は危機感を強め、岩手大、福島大など各地の大学が学長名で教職員、学生に提出を呼び掛けた。

 仙台市でも組織的な動きが明らかになった。市地下鉄東西線の建設事業費に関連する国土交通省の事業を後押しするため、市は「意見が多く集まれば予算確保の追い風になる」と関係団体に協力を求めた。

 こうした恣(し)意(い)的な意見が、純粋な「国民の声」と言えないのは明白だ。

 パブリックコメントを受け止める行政側の姿勢にも疑問が残る。敬老乗車証の見直しに関して、仙台市は反対意見が過半数を占めながら、それとは異なる判断を示した。市民の目には地下鉄にかかわる要請活動が矛盾しているようにしか見えない。

 政策コンテストの公開ヒアリングでも、提出件数で3番目に多かった「小学1、2年生の35人学級実現」に対して「厳しく査定せざるを得ない」といった批判的な意見が相次いだ。最終決定は12月だが、パブリックコメントの結果がどういう形で予算編成に反映されるのか。形(けい)骸(がい)化への懸念は消えない。

 ネットなどを使うパブリックコメントは作業負担の面で、行政側にとっても利便性が高い。これまでの公聴会、説明会といった住民の意向を確かめる機会が、それに置き換えられていく恐れもある。その場で意見のやりとりも可能な公聴会などは双方向性があった。対して、パブリックコメントは行政側の反応に直接触れることが難しいという問題点も抱えている。

 政策・事業に民意を反映させる作業は欠かせない。パブリックコメントはその手段の一つにすぎないことを、行政、住民の双方であらためて確認したい。

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