奨学金滞納 教育制度への警鐘だ『琉球新報』社説2010年11月15日付

『琉球新報』社説2010年11月15日付

奨学金滞納 教育制度への警鐘だ

 大学を卒業したのに、仕事がない。あるのは借金―。日本学生支援機構が発表した奨学金延滞者調査(2009年度)で、雇用機会に恵まれず、経済的困窮で返済が滞っている現状が浮かび上がった。

 学生時代に受けた奨学金の返済が半年以上遅れている社会人らの88%が年収300万円未満。100万円未満に限っても41%に上る。

 延滞者の職業を見ると、正社員は29%で、無職やアルバイトが半数以上を占めている。09年度時点で、機構の奨学金返済期限を越えたのは262万7千人。そのうち、6カ月以上の延滞者は全体の約6%に当たる17万6千人。1日以上の延滞者は約12%の33万6千人だ。

 文部科学、厚生労働両省の調査によると、来春卒業予定の大学生の就職内定率は、10月1日現在で、前年同期に比べて4・9ポイント減の57・6%で、調査を始めた1996年以降で最低となった。

 より高い教育を受ければ、職業の選択肢が広がり、就職率も高い。安定成長期時代にあった“常識”が、長引く不況で神話となりつつある。その神話を前提に構築された奨学金制度が揺らいでいる。

 大学や学部によって異なるが、大ざっぱに国立大は授業料が年間50万円超、私立大は100万円超。ヨーロッパでは、大学の授業料が無償の国もあるのに、なぜ日本は高いのか。

 義務教育以上の教育は、自己負担とする原則が日本人に受け入れられてきたことや、政府の緊縮財政で教育予算支出が減少していることなどが背景にある。経済協力開発機構(OECD)調査によると、日本の教育費支出は対国内総生産(GDP)比3・3%でトルコに次いで2番目に低い。

 大学進学率が50%を超えている今、授業料無償化は現実性がない。しかし、格差社会で、高等教育の自己負担原則に耐えられない家庭が増えている。奨学金制度以外に、もっと多様な支援制度があってもいいだろう。

 そもそも大学に進学するまでに日本は教育費がかかりすぎる。塾など学校外教育が盛んなのは、公立学校に対する不満があるからだ。それなら、教諭の数をもっと増やして少人数学級にするなど、学校教育の質を上げるべきだ。奨学金延滞者の増加は、金がかかる教育制度への警鐘と受け止めたい。家計への負担を減らしてこそ、教育の機会均等が実現される。

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