奨学金 格差解消へ抜本改革求む『西日本新聞』社説2010年11月7日付

『西日本新聞』社説2010年11月7日付

奨学金 格差解消へ抜本改革求む

 文部科学省は来年度政府予算の概算要求に、所管の日本学生支援機構が高専や大学、大学院などの学生に貸与する奨学金の大幅拡充を盛り込んでいる。

 家庭の所得格差が若者の学ぶ意欲に影を落としている。経済格差が教育格差につながるとすれば、教育の機会均等の理念からも由々しき事態である。文科省は実現に全力を挙げてもらいたい。

 返済不要の給付奨学金を含め公的な奨学金制度が充実している欧米に比べ、日本が貧弱であることは論をまたない。

 2010年度に支援機構の奨学金を受けている学生は118万3千人と、この10年間で2倍近く増え、大学生に限れば3人に1人が利用している。しかし、そのすべてが原則返済が必要な貸与制だ。しかも有利子型が7割を占め、無利子型の利用者は34万9千人にすぎない。

 無利子型奨学金は親の所得や本人の学業成績に一定の基準がある。だが、毎年2万6千人ほどが基準を満たしながらも貸与枠の不足から受給できず、有利子型を利用せざるを得ない状況だという。

 このため文科省は来年度、無利子奨学金の枠を3万7千人増やし、基準を満たす希望者全員に行き渡るようにする。さらに、有利子型の枠も増やし、貸与対象者を全体で130万7千人にする計画である。奨学金は若者の学ぶ機会を保障する仕組みの一つであり、不況で家計があえぐなか、拡充は待ったなしだ。

 この際、奨学金制度の抜本改革を求めたい。今年3月、経済団体の経済同友会が公表した提言が大いに参考になる。

 経済協力開発機構(OECD)の最新調査によると、国内総生産(GDP)に占める日本の公的な教育支出の割合は2007年、28カ国中で最下位だった。格差が際立つのが大学などの高等教育で、全教育支出に占める公費負担割合は32・5%とOECD平均の半分以下だ。その分、私費負担の割合が大きいのだ。

 同友会は、近年のこうした現状を憂慮して、具体的に(1)希望者全員への奨学金貸与(2)返済免除規定の拡大(3)給付奨学金の導入-の3点を提言している。

 (1)は概算要求が通れば、ほぼ実現するかもしれない。だが、それでも返済義務はのしかかる。残り2点は、現行の貸与奨学金の弊害を補う狙いがある。

 返済免除規定の拡大は、本人の卒業後の年収に応じて返済額を減免する所得連動型返済が念頭にある。英国やオーストラリアなどで導入されており、社会人としての自立を支援しているという。

 給付奨学金は文字通り、返済義務がない。もちろん、所得制限や成績基準はあるが、欧米ではこれが一般化しており、こうした奨学金をはじめ高等教育に多額の公費が支出されているのだ。

 経済的理由で進学が困難な若者は社会全体で支えることも必要だ。そのためには授業料減免などの拡充も不可欠だろう。若者の学ぶ意欲を摘まないよう、あらゆる努力を惜しんではならない。

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