『読売新聞』社説2010年10月25日付
科学研究予算 戦略なき削減は禍根を残す
日本が厳しい国際競争を生き抜くには、「科学技術立国」を目指す以外に道はない。
その前提が軽んじられていないだろうか。
幅広い基礎研究を支える科学研究費補助金など、多くの科学関連予算が、来年度の予算編成で、各省庁の要望を公開審査などでふるいにかける「政策コンテスト」の対象になった。
研究や人材育成の担い手である国立大も、この対象に含まれている。主要な財源となっている運営費交付金は、コンテストで全敗すると前年度比で約560億円、5%近い大幅減となる。
交付金が2番目に多い京都大のほぼ1校分の削減額だ。
2004年の法人化後、国立大の交付金は毎年約1%ずつ減らされ、すでに削減総額は800億円以上になる。研究と教育の水準維持も厳しい状況だが、これに拍車がかかりかねない。
科学技術への直接投資である科学技術振興費についても、概算要求額の約15%、2100億円分がコンテストにかけられる。小惑星探査を実現した「はやぶさ」の後継機も対象に含まれる。
大切なのは、研究開発を基礎と応用の両面で進めつつ、有能な人材を育てていくことだ。政府の投資も、総合的、戦略的な観点から決定されるべきだろう。
国の多種多様な政策と一列に並べて、短期的な視点から優劣を競わせるコンテストに委ねることは将来に禍根を残す。
最終的な採否は、政府幹部らで作る評価会議が決める。少なくとも個々の事業を丁寧に精査し、可能性を秘めた芽まで摘んでしまわぬよう、努めてもらいたい。
特に、科学技術関係者は、公開で行われた昨秋の事業仕分けの再現を心配している。
政府の高速コンピューター開発事業が「世界一でなくてはダメなのか」と叩(たた)かれるなど、厳しい逆風にさらされた。重要性を理解できないまま切る、では困る。
政策コンテストは、全省庁が前年度より概算要求額を一律10%減らす見返りとして導入された。総額は1兆円超の見通しだ。
科学関連予算の大半は文部科学省が編成を担う。だが、10%削減と、与党の重要政策である高校無償化の経費約4000億円が足かせとなり、国立大交付金などはコンテストに頼る結果になった。
高校無償化は所得を制限し本当に必要な人向けにすべきだ。バラマキ支給のしわ寄せで、未来への投資を削っていいはずがない。