大学・高等教育の基盤的教育研究経費の充実を求める−2011 年度予算編成に対する声明−2010 年10 月15 日 全国大学高専教職員組合 中央執行委員会

大学・高等教育の基盤的教育研究経費の充実を求める

−2011 年度予算編成に対する声明−

2010 年10 月15 日

全国大学高専教職員組合 中央執行委員会

政府は、2011 年度予算編成ルールとして、一律10%の予算削減を打ち出す一方、「元気な日本復活特別枠」を設け「政策コンテスト」を通じて各府省の要望事項に優先順位をつけ配分額を決定するとしている。また、その一環として各府省の要望事項に対するパブリック・コメント(9 月28 日~10 月19 日)を募集している。このため、文部科学省は2011 年度の概算要求として、国立大学運営費交付金のうち基盤的経費(教育研究経費や人件費等)について前年度比マイナス5%、560 億円を減額する一方、「特別枠」として884 億円を要望し、差し引き324 億円の増額をはかるとしている。また、私立大学助成金も前年度比マイナス12.6%、406 億円を削減し、「特別枠」での復活をはかるとしている。

私たちは、大学・高等教育の基盤的経費をこれ以上削減することにも、基盤的経費の削減分を使途が限定される特別経費で埋め合わせることにも反対してきた。また、上記の予算編成ルールも大きな問題を内包していると考える。私たちは、政府に対して、「政策コンテスト」による予算配分をやめ、国公私立の区別なく高等教育を充実させるための予算を安定的に確保し、国立大学・高専については基盤的な運営費交付金を拡充することを求める。

1 国立大学の財政は危機的状況

国立大学運営費交付金は、国立大学が教育研究活動を行うために必要な教育研究費、人件費、水光熱費等の基盤的経費や、政府が必要と判断した研究開発を行わせるための競争的経費からなり、国立大学法人法に基づき国が国立大学法人に交付するものである。

ところが、国立大学の法人化以降、運営費交付金は毎年度削減され、この6 年間で830 億円も減額されている。そのため、どの国立大学も厳しい財政運営を強いられており、とくにもともと財政基盤の弱い地方国立大学はその存立自体が危ぶまれる状況にある。文部科学省も運営費交付金の削減は限界に達していると警告している。

また、運営費交付金の削減にあたって基盤的経費の削減に重点がおかれてきたため、国立大学は競争的教育研究経費を獲得することにより財政規模を維持しようとしてきた。しかし、競争的経費で獲得した予算は使途が限定されているため、国立大学の教育研究条件の整備拡充のために支出することは難しい。そのため、特定の研究領域に資金が集中する一方で、全体としての教育研究条件は次第に劣悪化している。教育研究の現場からは、「学生実験に必要な器具が購入できず知識や技能形成に不安を感じる」、「授業用プリント・標本等が買えず教員が自己負担している」、「教員の欠員補充が進まず授業の開講数を削減した」、「若手研究者の養成が困難」、「図書館では毎年のように学術雑誌の購入打ち切りを進めている」などの報告が上がっている。

競争的経費による特定領域の研究を促進すれば、短期的には一定の研究成果を生む可能性はある。しかし、国立大学の教育研究を将来にわたって持続的に発展させるためには、基盤的経費を確保し教育研究条件全体の向上を図る必要があると、私たちは考える。

2 高等教育の基盤的経費の確保は、わが国の持続的発展の基礎

大学・高等教育の役割は何よりもまず国民の教育を受ける権利を保障することにある。高等教育予算を充実させることにより、大学・高等教育で学ぶことを希望する人々に大学・高等教育機関の門戸を広く開放することが必要である。また、大学・高等教育機関は学問の教育研究を通じて人類の知を継承・発展させる役割を担い、人類の進歩を支えている。さらに、大学・高等教育機関は日本の将来を担う人々を育てるとともに、研究開発や新しい知や価値の創造を通じて産業・経済をはじめとする人々の諸活動を活性化する役割を果たしている。

大学・高等教育機関が今後もこうした役割を果たし続けるためには、その教育研究が特定の政治的・経済的利害に左右されることになく、学問全体がバランスよく発展することが必要である。私たちが教育研究の基盤を支える基盤的経費の確保が必要だと主張する理由はここにある。政府は「元気な日本復活」のために公的資金を投入すると言うが、大学・高等教育に関して言えば、今回の予算編成で削減しようとしている基盤的な教育研究経費を充実させることこそ、わが国の持続的発展のために必要な政策である。

旧政権は国立大学運営費交付金をはじめとする高等教育費を削減し続け、大学・高等教育機関の教育研究基盤を危機的な状況にまで追い込んでしまった。政府は旧政権の轍を踏んではならない。

3 政策コンテストとパブリック・コメントの問題点

政府は2011 年度予算編成のために、政策コンテストと「元気な日本復活特別枠」に関するパブリック・コメントを導入した。政府はこれを「国民の声を予算編成に反映させる試み」として説明しているが、私たちはこれらにも看過しえない問題があると考える。

(1) パブリック・コメントで国民に求められているのは、各府省が提出した「元気な日本復活特別枠」の要望事項に対する意見である。しかし、これからの国の在り方やそれに対応する予算編成の原理原則こそ問われなければならず、それらに関する多様で開かれた国民的議論こそ確保されなければならない。

(2) パブリック・コメントとして提出する意見には、意見提出者の政治的信条や価値観が反映しており、また提出意見からそれらを読み取ることができる。ところが、意見提出に際して氏名・住所などの個人特定情報の登録が求められており、パブリック・コメントを提出する国民は自己の政治的信条や価値観を公権力に収集されるリスクを負っている。公権力を行使する政府はパブリック・コメントが内包する危険性に自覚的でなければならない。

(3) 各府省は自らの予算要望への評価を高めるため、関係機関・団体やその職員・家族にパブリック・コメントを提出するよう求めている。府省間の予算獲得競争に国民が動員され、その意に反しても肯定的なコメントを提出せざるをえない状況が作られている。パブリック・コメント提出が半ば強制される状況は、民主主義と思想良心の自由を脅かす事態である。

(4) 公教育や社会福祉など国民生活に必要不可欠な予算をも政策コンテストにかけるという予算編成の手法は、国民の意見反映という理由をあげてもなお正当化できるものではない。文部科学省は授業料減免枠の拡大、奨学金制度の充実、若手研究者の養成のための予算などを概算要求から外し、「元気な日本復活特別枠」の予算要望で確保しようとしている。しかし、「特別枠」の予算要望は政策コンテストを経て採択されるものであり、確実に確保できる保証はない。もしこれらの予算が確保できなければ、授業料減免や奨学金を必要としている学生はきわめて深刻な状況に陥ってしまう。各府省が国民に不可欠な予算を「特別枠」で要望せざるをえない予算編成ルールを策定したこと自体、無責任の誹りを免れない。

(5) 政策コンテストには、官僚主導の予算編成を改め政治的主導権を発揮しようとするねらいがあると説明されている。しかし、各府省は政府の思惑を逆手にとって、政治的・外交的配慮から認めざるをえない予算項目(たとえば「おもいやり予算」)や民主党の政権公約に関連する事項を「元気な日本復活特別枠」で要望している。その結果、政府高官が「特別枠」の予算を1 兆円ほど増額する必要があると発言するに至っている。こうした事態は、政策コンテストによる政治主導の予算編成という目論みそのものがすでに画餅に帰しつつあることを意味している。

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