国立大:運営費交付金4.8%大幅減 危機感、意見集め--「特別枠」コンテスト向け『毎日新聞』2010年10月19日付

『毎日新聞』2010年10月19日付

国立大:運営費交付金4.8%大幅減 危機感、意見集め--「特別枠」コンテスト向け

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 日本が2年ぶりのノーベル賞決定に沸く中、基礎研究を支える大学の現場はかつてない危機感を募らせている。来年度予算の概算要求で、国立大運営費交付金や幅広い基礎研究を支援する科学研究費補助金の一部が「元気な日本復活特別枠」に回り、政策コンテストの結果次第では大幅減額の可能性があるためだ。19日に締め切られる特別枠への意見募集には、科学技術予算が逆風にさらされた昨秋の「事業仕分け」の再現を恐れる大学関係者らからの投書が殺到している。【西川拓、永山悦子】

 「ノーベル賞を生み出すような基礎的な研究を支える運営費交付金がこれ以上削られると、次世代の育成に災いをもたらす」

 ノーベル化学賞受賞の吉報が舞い込んだ2日後の今月8日、全国に32ある国立大理学系学部の学部長会議が、大学運営の基盤的な経費となる運営費交付金などの確保に向け、国民の支援を求める緊急声明を発表した。

 学部長らは口々に、04年の法人化後に教員数や研究費の配分を減らすなど、コストの削減に取り組んだと説明。「国の財政が厳しいことは理解するが、国立大はすでにギリギリまで削減し、疲弊している。(予算を)減らすことのないようにしてほしい」(国枝秀世・名古屋大理学部長)と理解を求めた。

 発言の背景には政府の来年度予算編成方針がある。全省庁に対前年度比で一律10%の予算削減を指示。代わりに各省庁による政策コンテストによって総額1兆円超の特別枠予算を配分する。文部科学省は国立大運営費交付金(4・8%減)、私立大経常費補助(12・5%減)、科学研究費補助金(12・5%減)などで約6280億円を削減し、特別枠で「大学の機能強化」や「若手研究者の育成・支援」など、枠全体の大半を占める規模の総額約8630億円を要求した。

 ところが、コンテストで敗れれば大学予算や研究費は大幅減となる。国立大は法人化以降、政府の方針で毎年約1%の予算削減を余儀なくされてきた。この6年間で計860億円の運営費交付金が減り、実験器具がまともに購入できなくなるなど教育や研究への「弊害」も相次いだ。それが一気に自公政権時代の約5倍の削減幅となる恐れがあることに危機感を持った各大学は特別枠への意見募集に対し、意見を出すよう教職員だけではなく学生、保護者、OBらにまで働きかけてきた。

 ほとんどの国立大は教員へ協力要請のメールを配信。東日本の国立大の准教授は今月初旬、所属する学科から意見募集への協力依頼のメールを受け取った。10ページ以上にわたり、個々の事業に対するコメント案まで添付されていた。こうした活動の結果か、政府に寄せられた意見は4日現在、文科省分が約1万2800件と、全体の8割以上を占めた。

 その後も意見は続々と寄せられ、「件数は既に倍以上になっている。今月いっぱいで集計するが、大変な作業だ」と意見をとりまとめる内閣官房の事務局も悲鳴を上げている。大学関係者のこうした努力が生きるかどうかは、11月中旬にも予定されている政府の評価会議による査定次第だ。

 ◇ノーベル化学賞鈴木・北大名誉教授「科学予算、一律削減よくない」

 ノーベル化学賞に決まり、14日に高木義明文科相を表敬訪問した鈴木章・北海道大名誉教授は「国の財政難は理解するが、教育や科学の予算を、他のものと一律に10%削るというやり方はよくない。教育や科学の成果はすぐには出ないが、長い目で見なければならない」と政府の方針に疑問を投げかける。

 東北地方の国立大のある学部長は「大学運営の基盤や、若手育成にかかわる経費がコンテストに入れられてしまったことが非常に残念だ。(意見提出の)お願いをすることは内心は恥ずかしいと思うが、そこまで国立大は追い詰められているということ。『窮鼠(きゅうそ)猫をかむ』状況だ」と話す。

 角南篤・政策研究大学院大准教授(科学技術政策)は「大学の基盤を維持・強化するなど継続性が求められる予算は、コンテストにはなじまない。人材育成に関する予算にまで不確実性を持ち込むことは、予算編成の可視化というメリット以上にデメリットが大きい」と指摘する。

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