『中日新聞』 2010年10月19日付
科学力衰退の危機 国立大交付金、6年連続減
北海道大の鈴木章名誉教授らがノーベル化学賞に選ばれ、日本の科学力があらためて注目される中、その基盤となる国立大学から悲鳴が上がっている。国の財政難により、収入の柱となる運営費交付金が年々減少しているからだ。今回の日本人受賞に「資源小国の日本が生き残るには科学技術しかない」と支援を強く訴える。
「このままではノーベル賞受賞者をはじめ、優れた研究者を生み出した教育基盤の崩壊が起きる」。ノーベル賞発表直前の9月下旬、名古屋大はホームページで、運営費交付金の確保を求める緊急声明文を掲載した。北大など各国立大も同様の声明文を発表した。
国立大の運営費交付金は2004年度の1兆2415億円をピークに減少。10年度までの削減額は830億円で、名大規模の大学1校分の年間予算に当たる。
日本の学術論文数は04年ごろから減少傾向となり、06年には中国に抜かれた。名大の浜口道成学長は「ノーベル賞に結び付くような基礎研究ができなくなれば、韓国や中国に抜かれてしまう」と危機感を募らせる。
予算減は既に、研究の現場に影響を与えている。
化学プラント造りを手がける名大工学研究科の小野木克明教授は経費節減のため、実験室で試験用の小型プラントを造る代わりに、コンピューターの計算で済ませた。
「プラント完成後にどんな問題が起きるか、想定や対応が難しくなる不安がある」と同教授。さらに「今後、研究対象の物質に触ったことがない研究者が出てきてもおかしくない」と懸念する。
より深刻なのは愛知教育大だ。教員養成大学のため、名大のような病院収入はなく、産学協同研究による予算確保も難しい。12日には交付金削減に反対する集会に学生、教職員ら160人が参加。松田正久学長は「これ以上、教育の質を落とさず、予算を節減する方法はもうない」と訴える。
国と地方の債務残高は6月時点で1000兆円を超え、財政が厳しいのも事実。子育てや介護、格差の解消など課題は山積みだ。ただ、ノーベル化学賞を受賞した鈴木名誉教授は会見で「日本のような資源のない国にとって、理科系の発展は重要です」と述べている。
【大学の運営費交付金】2004年度の独立行政法人化後、使途を特定せずに国から毎年度出されている予算。地方自治体の地方交付税交付金に相当する。名大の場合、付属病院の収益を除くと収入の約50%を占める。