【教育動向】奨学金拡充というけれど……大学進学の支援まだまだ必要『産経新聞』2010年10月6日付

『産経新聞』2010年10月6日付

【教育動向】奨学金拡充というけれど……大学進学の支援まだまだ必要

 今年4月から「高校無償化」がスタートしましたが、最大の問題は高校ではなく大学進学の学費負担だと感じている保護者は、多いと思います。文部科学省は、2011(平成23)年度予算案の概算要求に「大学生等への総合的な経済支援プログラム」を盛り込み、奨学金や大学授業料の減免制度の拡大に乗り出すことを決めました。

文科省は同プログラムとして、1,209億円を要求。「無利子奨学金の大幅拡大」(879億円)と「授業料減免や学生の経済的支援体制等の充実」(312 億円)を求めています。日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金には、有利子(上限年利3%)と無利子の2種類がありますが、このうち無利子奨学金の貸与者を、現行の34万9,000人から38万6,000人に拡充することにしました。また、大学の授業料減免では、国立大学の授業料免除者の割合を、現行 6.8%(3万7,000人)から11(平成23)年度は8.4%(4万8,000人)に引き上げ、最終的には13(平成25)年度までの3年間で、授業料免除者の割合を12.5%にまで拡大することを計画しています。一方、私立大学については、私学補助金を活用して、授業料免除者の割合を現行1.5%(3万3,000人)から11(平成23)年度は2.0%(4万1,000人)に広げる予定です。

このほか奨学金については、「大学等奨学金事業の充実」として、日本学生支援機構の有利子奨学金の貸与者を、現行の83万4,000人から、11(平成23)年度は92万1,000人と大幅に増やすことも計画しています。これに先の無利子奨学金を合わせると、同機構の奨学金の貸与者は118万3,000人から130万7,000人へと、12万4,000人増える計算です。

大幅な奨学金の拡充や授業料免除者の増加は、民主党の参院選マニフェスト(政権公約)を受けたもので、経済的事情により大学進学などを断念することがないよう、支援することが狙いです。ただ、財政事情の悪化のなかで、財務省などが難色を示すことは確実です。年末の予算折衝のゆくえが注目されます。

ただ、文科省の方針自体にも、課題がないわけではありません。最近の世界的不況や、非正規雇用者の増加などによって、奨学金を返済できない者が急増しているからです。

もともと日本は、家庭の教育費が重い国です。経済協力開発機構(OECD)の国際比較によると、日本の高等教育費支出における私費負担の割合は67.5%で、データのある加盟国26か国中4位という高さです。国立大学が中心の西欧諸国は、授業料がほぼ無料という国が多く、逆に私立大学が中心の米国では、返済の必要のない給付奨学金が普及しています。これに対して日本は、国公私立とも国際的に見て授業料が高いにもかかわらず、ほとんど貸与奨学金しかありません。

財政事情が厳しいなかで、奨学金拡充を予算要求した文科省の努力は、評価できます。しかし、大学教育における経済格差を解消するためには、返済の必要のない給付奨学金の創設とその普及など、より抜本的な対策が求められるのではないでしょうか。

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