【教育】奨学金制度 曲がり角 「無利子」貸与漏れ解消も未返済777億円【産経新聞』2010年10月4日付

【産経新聞』2010年10月4日付

【教育】奨学金制度 曲がり角 「無利子」貸与漏れ解消も未返済777億円

 親の収入や成績などで無利子奨学金貸与の基準を満たしているのに、奨学金の原資不足で貸与を受けられない大学生が続出している問題が解消されることになった。文部科学省が来年度の概算要求で、不足分を補充する予算を計上したためだ。長引く不況で収入が減り、大学生の学費や生活費捻出(ねんしゅつ)に四苦八苦する世帯には朗報だが、その一方で、いまだに奨学金を返済しない人も多い。未返済額は総額777億円に上っており、奨学金制度は大きな曲がり角にさしかかっている。(菅原慎太郎)

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 独立行政法人「日本学生支援機構」を通じて行われる国の奨学金事業では、大学、短大、高専、専修学校、大学院の学生のうち、世帯の年収が一定額以下で、成績も上位の場合、無利子で奨学金貸与を受けられる。

 文科省によると、現在は34万9千人が無利子貸与を受けているが、基準を満たしているのに、申請しても大学側から貸与を拒まれる学生も2万6千人程度いるという。

 最大の原因は奨学金の原資不足だったため、同省は機構への政府貸付金を増額するなどして、こうした事態を解消する方針。

 ≪2年生以降も緩和≫

 来春の国公立大学の新入生からは、年収951万円以下のサラリーマン世帯か、465万円以下の自営業などの世帯で、高2、高3当時の平均成績が5段階評価の3・5以上ならば、必ず無利子奨学金を受けられるようになる見通しだ。

 同機構の奨学金は無利子の第1種と有利子の第2種に大別され、無利子なら、大学生で原則月額3万~6万4千円を受けられる。

 毎月5万円程度の奨学金を4年間受けた場合、無利子でも有利子でも、卒業後15年間返済が必要だが、無利子の返済月額は有利子より3千円程度安い1万3600円にとどまる。

無利子基準を満たしているのに認められず、やむなく有利子奨学金を借りるなどしていた多くの学生や保護者からは「どうして、認められないのか」「不公平だ」と不満や困惑の声が続出していたが、こうしたケースはなくなっていきそうだ。

 また、2年生以降も無利子を受けるための基準も緩和。大学の成績で上位3分の1をキープすることが求められていたが、今後5年で上位4割までに緩和されることになった。このため来春の無利子貸与者は3万7千人まで増える計画だ。

 ≪保護者「助かる」≫

 リーマン・ショック後の長引く不況で保護者の収入は減っており、学生の生活費は節約傾向。全国大学生協組合連合会が行った保護者への調査では、今春の新入生の下宿アパート家賃平均は前年比1300円減の4万3800円、新生活の生活用品購入費も2年前と比べ4・7%減り、28万7千円にとどまっており、来春受験者の保護者からは早くも「奨学金の拡充は助かる」という声が上がっている。

 ただ一方で、奨学金の未返済額は年々膨らむばかりで、平成21年度末で777億円に上っている。大学進学率の上昇で、奨学金を受ける大学生は増えており、無利子に加え、有利子の奨学金を受ける学生は8万7千人増える見通しで、合計で131万人。総事業費は1兆1千億円に上っている。

 文科省では奨学金未返済への法的措置を強化するなど対策を進めていく方針だが、これ以上、未納分が増えれば、奨学金制度そのもののあり方を見直す意見も出かねない状況だ。

 

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