奨学金制度 給付型視野に充実図れ『岩手日報』論説 2010年9月27日付

『岩手日報』論説 2010年9月27日付

奨学金制度 給付型視野に充実図れ

 文部科学省は、所管する独立行政法人「日本学生支援機構」が大学生、大学院生らに貸与する無利子奨学金について、2011年度の対象者を拡大する方針を決めた。奨学金は極めて重要な制度。今回の方針は一定の前進だが、給付型奨学金も視野に入れ、さらに充実を図ってほしい。

 奨学金がなければ進路が狭められる人は相当数いる。国立大でも授業料が50万円を超す時代。支援機構の調査によると、機構や他の奨学金を受給する大学生(夜間部を除く)の割合は、08年度では43%に上る。

 岩手大の場合は約半数が同機構の奨学生。「各大学は一般的に3~4割とされる中で、岩手大の比率は高い」(同大担当者)という。恩恵を受ける学生は多い。

 文科省は11年度の無利子対象を本年度より3万7千人増やして38万6千人に、有利子対象を8万7千人増やして92万1千人にする方針だ。

 無利子は所得や成績に基準がある。文科省は今回の措置により、基準を満たす学生が申請すれば全員が受けられるよう拡大が図られるとする。学力基準も緩和する。

 無利子対象拡大は評価できる。しかし、有利子対象が多いことに変わりはない。有利子の場合、返済額が相当に膨らみ、返還の負担を重くする。無利子枠を大幅に拡大することは考えられないか。

 右肩上がりの経済成長が見込まれる社会なら、返済の見通しは立てやすいだろう。しかし景気は低迷し、就職事情が悪化。収入が不安定な非正規雇用も増えた。卒業後、厳しい状況に置かれるケースは容易に想像できる。

 実際、返済滞納は大きな問題となっている。09年度の「返還を要する債権額」4兆140億円に対する延滞額は、2629億円に上る。

 延滞者の中には悪質な者もいるだろう。住所不明の延滞者の存在など調査体制の不備もある。正常な運営のために対策は急務だ。とはいえ、「返したくても返せない」人が増えていることが、滞納の根本的な要因ではないか。

 子ども手当が導入されたが、親の間では奨学金充実の優先を望む声も聞かれた。大学進学時の多大な出費への心配からだ。「子ども手当は将来に備えて貯蓄する」という家庭は珍しくないと思われる。

 奨学金の拡大は財源確保が前提となる。厳しい財政事情は周知の通りだ。しかし、日本の教育支出は、決して多いとはいえず、私費に多大な負担を強いている。

 経済協力開発機構(OECD)が先ごろ発表した調査結果が如実に示す。07年の国内総生産(GDP)に占める公的な教育支出の割合をみると、データ比較が可能な28カ国中、日本は最下位の3・3%。平均の4・8%に遠く及ばない。

 有為な人材を支える奨学金は、社会に還元される。政府は意義を強く認識し、重点施策として進めてほしい。理想的には、返済義務のない給付型の創設・充実だ。

菅原和彦

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