新教育の森:教育への公費、貧弱さ浮き彫り OECD国際比較…平均並みハードル高く『毎日新聞』2010年9月18日付

『毎日新聞』2010年9月18日付

新教育の森:教育への公費、貧弱さ浮き彫り OECD国際比較…平均並みハードル高く

 経済協力開発機構(OECD)が「図表でみる教育10年版」を公表した。国際比較で改めて浮き彫りになったのは、日本の教育環境の貧弱さだ。民主党はOECD平均並みに教育への支出を増やす目標を掲げるが、ハードルは高い。【井上俊樹】

 ◆家計頼みの高等教育

 民主党は、国内総生産(GDP)に占める学校など教育機関への公的支出割合を、OECD平均以上に引き上げる目標を掲げている。公表されたデータによると、07年のOECD平均は4・8%。これに対し、日本のGDP比は3・3%で、比較可能な28カ国の中では最下位だった。

 07年の日本の名目GDPは約515兆円。OECD平均との差の1・5%を埋めるには、新たに8兆円近い支出が必要になる計算だ。今回のデータは自民党政権時代のものだが、政権交代後に始まった高校無償化にしても事業費は3933億円。「OECD平均」の達成は容易ではない。

 各国との格差がとりわけ大きいのが、大学などの高等教育段階だ。私費を含めた高等教育機関に対する全支出に占める公費の割合はOECD平均が69・1%だったのに対し、日本は32・5%にすぎない。授業料など家計からの支出が51・1%、大学への寄付など企業や個人の支出が16・5%で、計67・5%が私費からの支出だ。08年の日本の高等教育への進学率はOECD平均(72%)を上回る77%。アメリカのように公費が少なくても企業からの寄付金や奨学金が充実している国と違い、日本や韓国などは、家計負担に頼ることで高い進学率を可能にしている。

 文部科学省は来年度予算の概算要求に、04年度以降毎年削減してきた国立大学法人運営費交付金の増額を盛り込み、国立大の授業料免除対象者を今年度(約3万7000人)より約1万1000人増やすことを目指す。また、大学生らへの奨学金の貸与人数を無利子、有利子合わせて12万4000人増やすための予算増も要求。このほか、低所得世帯の高校生約66万人に対する返済不要の給付型奨学金新設に122億円を要求した。

 ◇まだ多い1学級の児童生徒数 編成基準引き下げで改善見込み

 日本は少人数教育の面においても、他のOECD諸国との差が歴然としている。08年の1クラス当たりの児童生徒数は、小学校が28人で27カ国中3番目に多く、OECD平均(21・6人)と6人以上、最少のルクセンブルク(15・6人)とは12人以上の開きがある。中学校も33人と23カ国中2番目に多く、OECD平均(23・7人)と9人以上、最少のスイス(18・9人)とは14人差だ。

 また、教員1人当たりの児童生徒数は、小学校が18・8人(OECD平均16・4人)、中学校が14・7人(同13・7人)。いずれもOECD平均より多く、その分、子どもたち一人一人に目が行き届きにくいのが現状だ。

 ただ、この差は今後縮まる可能性が高い。文科省は来年度、学級編成基準を現行の上限40人から30年ぶりに引き下げる計画を発表。18年度まで8年間かけて教員を徐々に増やし、最終的に小学1、2年生は30人に、小学3年から中学までは35人とする考えだ。計画通りならば、教員数は現在よりも約2万人増えることになる。一方で少子化も進むことから、18年度段階の教員1人当たりの児童生徒数は小学校16・1人、中学校12・7人と、現在のOECD水準並みに改善する見込みとしている。

 ◇学校選択制 積極導入国、半数超える

 学校選択制についても、日本とOECD諸国との間に違いが見られた。学校選択制が一般化しているのは、初等教育(小学校)ではイギリス、フィンランド、ドイツ、イタリア、アメリカなど30カ国中17カ国。前期中等教育(中学校)では18カ国。日本は韓国やノルウェーなどと共に一般化していない国に分類された。

 OECDによると、積極的に導入している国は、(1)学校同士で競争し切磋琢磨(せっさたくま)する(2)(成育環境や学力が近い児童生徒が集まることで)幅広い生徒に対応する必要がなくなり、教育サービスを効率的に行える(3)独創的・個性的な学校が生まれやすくなる--などを理由に挙げている。

 日本でも97年の規制緩和で学校選択制を導入できるようになったが、文科省の06年調査では、小学校で導入した市町村が14・2%、中学が13・9%。導入した自治体でも、市町村内の学校を自由に選べる形態は少なく、従来の通学区を残して特定の地域に住む児童生徒だけを対象にした形態が多い。近年は「地域との関係が希薄になる」「学校間の序列や格差が生じる」「入学者数に偏りが出る」といったデメリットを指摘する声も多く、前橋市が学校選択制を廃止するなど、見直しの動きも相次いでいる。

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 【公的支出の対GDP比】

 (1)アイスランド 7.0

 (2)デンマーク  6.6

 (3)スウェーデン 6.1

 (26)チリ     3.7

 (27)スロバキア  3.4

 (28)日本     3.3

 (単位は%。OECD平均は4.8%)

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