法科大学院、文科省の補助金減額方針『読売新聞』2010年9月17日付

『読売新聞』2010年9月17日付

法科大学院、文科省の補助金減額方針

低迷校に危機感

 文部科学省は16日、司法試験の合格実績などで低迷が続く法科大学院について、公的支援を大幅に減額することを中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別委員会に報告した。

 2012年度予算からの実施で、来年時点での合格実績などを基に減額対象校を決める基準も公表した。

 基準の内容は、〈1〉前年の大学院入試の受験倍率が2倍未満〈2〉修了生の司法試験の合格率が過去3年とも全国平均の半分未満――の両条件とも当てはまる大学院について、交付金・補助金を減額するというもの。特別委員会では、「各校が改革していれば、減額の必要はなかった。減額に劇薬的な効果はある」と評価する声が上がった。

「運営に支障が」

 仮に今年時点の実績を基に計算すると、二つの条件にいずれも該当するのは国立の島根大と、私立の駿河台大、国学院大、大東文化大、東海大、関東学院大、桐蔭横浜大、京都産業大、龍谷大、大阪学院大、久留米大の計11校となる。来年の実績が改善すれば減額対象にはならないが、各校からは文部科学省の方針について懸念の声が上がった。

 東海大の教務担当の犬飼康(いぬかいやすし)課長は「補助を削られたら、学園全体で支援せざるを得ない」と、危機感をあらわにする。「法学を専攻していない人も広く受け入れるという制度の理念を実践してきた。合格率で判断されるのには違和感がある」と文科省の姿勢に疑問を示すが、合格率を高めるため、「法学の素養がある人の入学を増やし、受験指導も強化する方向にかじを切らざるを得ない」という。

 法学部出身でない学生が多い国学院大も、「学生の勉学の道を閉ざしかねない」と不安を隠さない。今後は、学内に弁護士会が設置した法律事務所があり、実務教育が充実していることなどをアピールし、志願者増を目指す。駿河台大は「運営に多大な支障が生じる」と懸念を表した。

 ほかの8校は読売新聞の取材に対し、無回答か、「コメントしない」と答えたが、「入試直前なので、大学名を出してコメントすることで志願者を刺激したくない」と漏らす担当者もいた。

[解説]再編・淘汰促す狙い

 今回の文部科学省の決定は、各校に危機感を抱かせ、乱立する法科大学院の再編・淘汰(とうた)を促す狙いがある。

 当初は20~30校が適切と言われていた法科大学院は74校でスタートし、定員が膨れあがった結果、司法試験合格率が低下し、それが法科大学院志望者の減少を招く悪循環に陥っている。

 支援減額の方針が示されたことで、入試の受験倍率を上げるために定員を削減する大学院も出てくる可能性がある。これまでの悪い流れを断つためには、「実力行使」で全体の定員縮小を図るのはやむを得ない。

 ただ、目先の司法試験合格率を上げるために試験対策偏重の傾向が強まれば、多様な教育で法曹の質を高めるとした法科大学院本来の趣旨に逆行しかねない。数字ばかりを追い求めることにならないよう、各校の教育の質を正しく評価する仕組みも求められる。(松本英一郎)

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