国立大学交付金/特色づくりに有効活用を『河北新報』社説 2010年09月07日付

『河北新報』社説 2010年09月07日付

国立大学交付金/特色づくりに有効活用を

 2011年度予算の概算要求で、文部科学省は国立大の収入源である運営費交付金として1兆1909億円を盛り込んだ。前年度当初予算比で324億円の増額(2.8%増)となり、要求が認められれば、04年の国立大法人化に伴う交付金創設以降、削減を続けてきた方針の転換となる。

 各大学は、削減の分を外部からの研究資金獲得や付属病院の収入増など自己資金調達でしのいできた。しかし、研究者が書類作りなどの作業に追われているほか、病院では診察に忙殺されるようになり、大学側が「本来業務の研究に支障が出ている」と見直しを求めていた。

 科学技術立国を支える研究現場の環境を整えることは望ましいことだ。ただ、多額の研究開発費、施設整備費の使い道に無駄はないか、非効率な支出はないか、十分な説明責任が求められる。大学は、財政運営プロセスの透明化に努めることを忘れてはならない。

 法人化は大学の自立と競争力を高める狙いで行われ、自公政権の「骨太の方針」に沿って運営費交付金は毎年、1%程度減らされている。削減額は6年間で830億円に上る。

 各大学は交付金の不足分を補おうと、先端的な研究に配分される国の科学研究費補助金をはじめ、民間企業との共同研究など「競争的資金」を獲得するよう教員らに奨励した。

 短期的に成果が上がりやすい研究に走る傾向が強まったほか、「外部資金の獲得は申請書作成など準備に手間がかかり、研究する時間が減った」など弊害を指摘する声が聞かれた。

 外部資金の確保に苦しむ中で、収入源の役割を求められたのが付属病院だった。手術件数、患者の受け入れ数ともに大幅に増えた結果、研究者でもある医師が診察に忙しく、高度医療研究に割く時間が足りなくなるといった影響が出始めている。

 自然科学系の研究者が世界の学術誌に執筆した論文数が減少の一途にあるというデータも公表され、国立大学協会は「運営交付金の削減は、人材養成や研究の拠点を破壊している」と予算の確保を要望した。

 昨年9月の政権交代後、先端技術開発を重視する民主党は削減方針の撤廃を表明。11年度予算の概算要求で初めて増額を明記した。増額分は、付属病院の教育研究支援(100億円)、新たな教育研究事業の推進(同)などに充てたいという。

 国立大は10年度から法人化の「第2期中期計画」に入った。助走期間とも言えた1期目に対し、各大学の特色、得意分野を生かす個性ある学術拠点づくりを眼目にしている。

 運営費交付金が実際に増えるかどうかは、年末の予算編成で決まるが、長期的な取り組みが必要な基礎研究などは、やはり国立大が担うべきだろう。若い研究者が希望を持てるよう支援し、有効に活用してほしい。

 一方で、大学も効率の良い支出に努めるとともに、外部評価制度の充実、成果の公表を推し進め、社会貢献を十分に果たすことを望みたい。

 

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