大学の予算 削減は「可能性の芽」を摘む『宮崎日日新聞』社説2010年9月2日付 

『宮崎日日新聞』社説2010年9月2日付

大学の予算 
削減は「可能性の芽」を摘む

大学の予算が引き続き大幅に一律削減されるのではないかと、大学関係者の間で不安が高まっている。

2004年の国立大学の法人化以降、運営費交付金が毎年1%ずつ減額されている。さらに予算削減が続けば、日本の大学は壊滅的打撃を受ける。

大学は人材養成と研究活動を担う場である。その予算は重要な「未来への投資」であり、これ以上衰退させてはいけない。

■無駄遣いの点検必要■

6月22日に閣議決定された「財政運営戦略の中期財政フレーム」。これに国立大や大学共同利用研究機関の運営費交付金、私立大の経常費補助、科学研究費などの政策的経費13兆円を年間8%、1兆円ずつ、3年間削減する方針が示され、大学は大きな衝撃を受けた。

日本化学会など29の学会の会長や、大学の学長らが大学・研究機関の強化と予算確保を求めて緊急声明を出した。

このまま予算削減が続けば大学の教育と研究は崩壊してしまう。いったん崩れた大学の再生は容易ではない。

深刻な財政難の中で、成長戦略を理由に大学だけを聖域とするわけにはいかない。昨年秋の与党の事業仕分けで指摘された科学技術研究費の無駄遣いの点検は必要だ。

研究費の不正使用は後を絶たない。大学は公正で効率的な同費の使用に努めるべきだ。

中国や韓国など東アジア各国は大学への投資を増やして研究者の育成に力を入れている。それと対照的に日本だけが最近5年間で高等教育予算が伸びていない。

■地方の大学ほど深刻■

大学の博士課程への進学者は04年以降、約20%も減った。世界的な人材育成・獲得競争で日本が取り残されようとしている。

英国の科学誌ネイチャーは各国の研究者を対象に実施した、待遇への満足度調査の結果を6月24日号で発表している。16カ国のうち日本の研究者の満足度が最低だった。日本の大学進学率は50%に達したが、韓国やタイより低い。

国立大の運営費交付金は04年度から10年度までに計830億円減った。大学の日常の運営を下支えする基盤的経費の削減は、新しい研究の芽を摘んでしまう。

予算一律削減の影響は地方の大学ほど深刻だ。地方の大学は地域に密着した研究拠点で、地域の活性化に果たす役割は大きい。競争を重視するあまり、多様な大学の可能性をつぶしてはいけない。

2000年以降、ノーベル賞の受賞者が8人、日本から出た。その大半は1970年前後に、運営費交付金による国立大の自由な研究土壌から生まれた業績だった。

自然や人間、社会の謎に挑戦し、世界に貢献する人材を育てる大学をもっと大事にすべきだ。政府には予算削減路線を改めるよう求めたい。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com