自衛隊求人、大学に急接近 隊員が講義、単位も認める『朝日新聞』2010年8月29日付

『朝日新聞』2010年8月29日付

自衛隊求人、大学に急接近 隊員が講義、単位も認める

自衛官の募集にあたる自衛隊地方協力本部(地本)が、若手隊員の獲得に向けて大学への働きかけを強めている。少子化や大学進学率の上昇で、高卒者だけでは隊員の必要数を確保できないことが背景にはある。福岡県内の大学では、全国で初めて幹部自衛官による連続講義が行われるなど結びつきが際立っている。

「新たな脅威は予測困難で突発的に発生する可能性が大きい。『自衛隊がいるから手を出せない』という抑止につなげることがベストだ」

7月下旬、北九州市立大学(同市小倉南区)の講堂で、100人を超す学生を前に自衛隊福岡地本の山中洋二本部長(1等陸佐)が教壇に立った。この日のテーマは「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応について」。レンジャー隊員の経験や特殊部隊の立ち上げにかかわった山中氏に、学生からは「テロに巻き込まれたらどうすべきか」「特殊作戦を担う隊員の訓練はどれほど厳しいのか」など率直な質問が相次いだ。

同大学では2008年度から現役自衛官による講義を始めた。昨年度から連続講義に発展し、受講者への単位付与も認めた。今年度はソマリア沖海賊対処で第1次航空隊司令を務めた1等海佐ら国際任務の第一線にいる幹部らが講師を務め、陸海空自衛隊基地の見学も行った。防衛省によると、現役自衛官が講師を務め、単位まで認める連続講義は全国でも例がないという。

■少子化で人材難

自衛隊が大学へ働きかけを強めるのは、少子化と進学率上昇という二重苦にさらされ、高卒中心だった若手隊員の募集では、必要数を確保出来なくなりつつあるためだ。

福岡県内では、1980年に40%を超えていた高卒就職率は09年度に約18%まで低下。大学・専門学校への進学率は45%前後から約76%に跳ね上がった。そのため福岡地本では05年度から大学への募集活動を本格的に始めた。従来、幹部候補生の採用が中心の大学に対して、講義や就職説明会を通じて、幹部に登用しない一般曹候補生(09年度の募集は約4250人)や任期制隊員(同約2190人)の募集も呼び掛ける。不況が続くうちに公務員志望の学生を囲い込みたいとの思惑もある。

福岡地本では九州国際大や福岡大などでも講義を行い、大学生対象の2週間程度の就業体験も実施。同地本の弓場信行募集課長は「まずは国防の現状について大学生に関心を持ってもらいたい。その延長線上で自衛官の仕事を知り、自衛隊に入ってもらえれば」と期待する。実際、講義を行う大学からの受験者は徐々に増えているという。

■「国防考える契機に」

北九大で連続講義を企画した戸蒔仁司准教授(安全保障)は講義の目的を「平和教育を行う中でリアリティーを持たせたかった。国防問題を通して極東アジアなどの国際関係が見えてくる」と話す。

学生の評判は、上々だ。冷戦終結前後に生まれた学生の多くにとって、自衛隊は戦争や軍隊という負の印象より、国際貢献活動や災害派遣で頼りになる存在との印象が強いのかもしれない。

国際関係学科3年の女子学生は「日ごろ、接する機会のない話で国防を考えるきっかけになった。今後、国連平和維持活動など日本の国際貢献の役割をさらに学んでいきたい」。政策科学科2年の女子学生は「両親は自衛隊があまり好きではないが、必死に私たちを守ってくれていることを知って、そんな態度は良くないと思った。自分が自衛官になろうとは思わないが弟に勧めようかな」という。

一方で、大学は講義での露骨な募集は自粛を要請し、あくまでも教養教育の一環と位置付ける。戸蒔准教授は「(教育と募集という)お互いの共通利益があるのは事実。学生が『自衛隊も将来の選択肢の一つ』と考えれば良いのではないか」という。(石松恒)

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