平成23年度概算要求枠に関する緊急宣言―新成長戦略における日本の知的基盤崩壊の危機を憂える―国立大学53工学系学部長会議平成22年8月6日

平成23年度概算要求枠に関する緊急宣言

―新成長戦略における日本の知的基盤崩壊の危機を憂える―

国立大学53工学系学部長会議

平成22年7月27日に、平成23年度予算の概算要求基準が閣議決定され、国債費を除く一般歳出について上限を昨年度並みの71兆円とすると共に、社会保障費などを除く各省庁の要求額について22年度当初予算の一律10%削減が求められることとなりました。

これに基づき「国立大学法人運営費交付金」を始めとする高等教育予算や科学技術振興関連予算にも10%削減が適用されると、日本の成長戦略が求める「人材育成」「学術研究」「地域貢献」を担ってきた「国立大学法人」を財政的に崩壊させ、国家として最優先に取り組むべき成長戦略の牽引役を担う科学技術政策の多くが実現不可能になる恐れがあります。これは深く憂慮されるものであり、到底看過できるものではありませんので、国立大学53工学系学部長会議として協議し、ここに緊急宣言を発表することとしました。

緊急宣言

日本の将来を考える時、政府の「新成長戦略」および「財政運営戦略」が目指している「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の実現は最優先で行われるべき事項であります。国立大学法人も、国の厳しい財政状況を踏まえ、この6年間に人件費の削減や、無駄の排除など運営の効率化に取り組む一方、競争的資金獲得に努めるなど、教育研究の質的向上や地域への貢献に最大限の努力をしてきました。しかしながら、6年間にわたる運営費交付金節減(5%~6.8%)を続けた現在、教育研究や社会貢献等のこれまでの活動水準を維持する上で、経費削減は限界に達しており、今回の閣議決定による要請は国立大学法人の運営を危うくするものであります。

昨年12月の事業仕分けの際に、国立大学53工学系学部長会議は、「日本の学術および科学技術に関する緊急宣言―グローバル社会における日本の科学技術水準の衰退を憂える―」という緊急宣言を発表し、国立大学法人の置かれている厳しい財務内容に対する理解を訴えたところです。

去る7月27日に閣議決定された平成23年度予算の概算要求基準では、国債費を除く一般歳出について、上限を昨年度並みの71兆円に抑えると共に、社会保障費などを除く各省庁の要求額について22年度当初予算の一律10%削減を求めることとなりました。国立大学法人への「運営費交付金」はもとよ

り、全国の教育研究機関にとって貴重な「科学研究費補助金」などの多くの競争的資金も一律に削減される可能性が強くなっています。これは国立大学法人にとっても努力の限界をはるかに超えた予算削減となります。

ところで、平成21年度末の借入金を含めた国と地方の長期債務残高が 820兆円を超すなど、逼迫している我が国の財政状況において予算に関わる無駄の排除がなされることは当然のことであり、将来の日本を担う若い世代に負の財産を残さぬように努力することは我々の責務でもあります。

しかしながら、日本の高等教育に対する公的財政支出の対GDP比は、OECD各国平均の半分にも満たない状況であることは周知の事実です。これ以上「未来への先行投資」である高等教育への公的財政支出を削減することは、日本の高等教育を衰退させ、新成長戦略等に示されているような成長分野を牽引し、イノベーションを実行させる推進力を失わせ、日本の将来に取り返しのつかないダメージを与えることになると危惧いたします。

全国の大学の工学系学部は、我が国の産業を支える優秀な技術者を多数世の中に送り出す一方、科学技術を発達させることで、国民生活を安全かつ健康で快適にすると共に、産業の国際競争力を高めるなど日本の経済発展に大きく貢献してきました。この中で、全国各地に拠点を置き、地域の教育研究ニーズや産学連携ニーズに応えてきた国立大学法人が果たしてきた役割は非常に大きいものと考えています。

今もし、各地に展開する教育研究や産学連携活動が停滞すると、我が国の人材供給が停止するとともに、海外への頭脳流出が進み、結果として、人材の深刻な枯渇、技術水準の低下や我が国の産業の脆弱化、ひいては国際的信用の失墜につながり、「強い経済」「強い財政」とは全く逆方向の流れを一気に加速することになります。

中国やインドなどの新興国との競争の中で、資源の少ない我が国は科学技術により国際競争力を高めていかなくてはなりません。優れた学術や科学技術を通じて「エネルギー問題」「環境問題」「食糧危機問題」「国際的なウィルス感染」など数多くの人類共通の課題解決に大きな力を発揮し、これからの国際社会をリードすることこそが「日本の新成長戦略」であり、「強い日本の再生」に繋がることは誰しも否定することのできない事実です。政府が目指す「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を実現するためには、日本はこれまで以上に努力し、「科学・技術・情報通信立国」であり続けることが不可欠なことは明らかです。

日本社会はこれまでも幾多の経済危機に直面してきましたが、科学技術の水

準を保つことの重要性を理解し、苦しい財政事情の中でも常に大学の教育研究や地域貢献活動の向上に向け格段の財政的配慮がなされてきました。大学に携わる教員は、そのような計らいに真摯な態度で「教育」「研究」「地域貢献」に取り組み、国民の負託に応えてきました。もし国立大学法人の運営費交付金や科学技術振興関連予算が大幅に削減されますと、「科学・技術・情報通信立国」として生きるべき日本の将来にとって致命的な結果を招きかねないと深く憂慮いたします。

来年度以降の予算編成にあたっては、今後も日本が「科学・技術・情報通信立国」であり続け、「元気な日本を復活させる」ことが実現するように、国立大学の教育と研究を支える運営費交付金を始め、我が国の高等教育や科学技術振興関連予算の在り方について格段の配慮を強く望むものであります。

平成22年8月6日
署名人一同

平成22年8月6日
平成23年度概算要求枠に関する緊急宣言
―新成長戦略における日本の知的基盤崩壊の危機を憂える―

署 名 人 (国立大学53工学系学部長会議構成員)
大 学 ・ 学 部  氏  名
室蘭工業大学  伊 藤 秀 範
北見工業大学  高 橋 信 夫
弘前大学理工学部  稲 村 隆 夫
岩手大学工学部  堺   茂 樹
秋田大学工学資源学研究科  西 田   眞
山形大学工学部   大 場 好 弘
福島大学共生システム理工学類  石 原 正
茨城大学工学部  神 永 文 人
筑波技術大学産業技術学部  渡 部 安 雄
宇都宮大学工学部  井 本 英 夫
群馬大学工学部  板 橋 英 之
埼玉大学工学部   佐 藤 勇 一
千葉大学工学部  野 口   博
東京農工大学工学部  纐 纈 明 伯
東京海洋大学海洋工学部  鶴 田 三 郎
電気通信大学情報理工学部  加 古 孝 
横浜国立大学工学院  石 原   修
山梨大学工学部  豊 木 博 泰  
新潟大学工学部  大 川 秀 雄
長岡技術科学大学  髙 田 雅 介
富山大学工学部  広 瀬 貞 樹
金沢大学工学部  山 崎 光 悦
福井大学工学部  小 倉 久 和
信州大学工学部  岡 本 正 行
信州大学繊維学部  濱 田 州 博
岐阜大学工学部若   井 和 憲
静岡大学情報学部  荒 川 章 二
静岡大学工学部  東郷 敬一郎
名古屋工業大学  鵜 飼 裕 之
豊橋技術科学大学  稲 垣 康 善
三重大学工学部  小 林 英 雄
京都工芸繊維大学工芸科学部  森 迫 清 貴
神戸大学工学部  森 本 政 之
神戸大学海事科学部  小 田 啓 二
和歌山大学システム工学部  瀧   寛 和
鳥取大学工学部  田 中 久 隆
島根大学総合理工学部  竹 内   潤
岡山大学工学部  谷 口 秀 夫
岡山大学環境理工学部  栗 原 考 次
広島大学工学部  吉 田 総 仁
山口大学工学部  堀 憲 次
徳島大学工学部  大 西 徳 生
香川大学工学部  大 平 文 和
愛媛大学工学部  村 上 研 二
九州工業大学工学部  石 川 聖 二
九州工業大学情報工学部  仁 川 純 一
佐賀大学理工学部  林 田 行 雄
長崎大学工学部  清 水 康 博
熊本大学工学部  両 角 光 男
大分大学工学部  井 上 正 文
宮崎大学工学部  大 坪 昌 久
鹿児島大学工学部  福 井 泰 好
琉球大学工学部  山 川 哲 雄

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