中教審大学分科会(第89回)「私学はダメだから、つぶすのか」 早大総長、熱弁の波紋『Asahi.com 大学取れたて便』2010年5月28日付

『Asahi.com 大学取れたて便』2010年5月28日付

http://www.asahi.com/edu/university/toretate/TKY201005280298.html

中教審大学分科会(第89回)
「私学はダメだから、つぶすのか」 早大総長、熱弁の波紋 

大学の情報公開を義務化するため学校教育法施行規則などを改正することについて、川端達夫文部科学相が5月26日、中央教育審議会大学分科会に諮問し、了承された。この改正はすでに方向性が中教審で打ち出されていた。分科会ではほかに、5月11日に大学規模経営部会でまとめられた「私立大学の健全な発展に向けた充実方策について」(5月13日にこのコラムに掲載)という論点整理や、大学院教育の実質化の検証など各部会の議論の経過が紹介された。

今回の議論の的になったのが、上述した大学規模経営部会での「私大の充実方策について」。「撤退」の方策として、不採算部門を見極め学生の募集停止を実施→再生困難な部門を整理すると盛り込んだほか、募集停止の留意事項をガイドライン化、撤退する学生のケアやセーフティーネットを検討するよう求めている。

白井克彦委員(早大総長)が、「私大の充実方策」の論点整理について、国立大学を相手にしてきた文科省が私学のことだけを取り上げたペーパーをまとめたのは「画期的で初めてのこと」と口火を切って続けた。「しかし内容を見ると、いかに私学をつぶすかという論調ではないか。私学はもともと競争原理でやっている。肝心な日本の国公私のシステムのいびつさが議論されたのか。固定化したこのシステムを変えればいろんなことができる。新しい高等教育システムを考えるべきだ。機能分化(大学を研究などの機能によって区別、分化すること)も現状肯定することにとれないか。システム全体をどうよくするのかという議論をお願いしたい」

続いて、論点整理をまとめた大学規模経営部会の金子元久委員(国立大学財務経営センター研究部長、前東大教授)が、「私学の統廃合は深刻に受け止められながらも本格的に議論されなかった。はっきりと取り上げたことに意味がある。経営上の問題だけでなく、質の問題も重要。今後、白井委員の発言も踏まえ議論したい」と話した。同部会の樫谷隆夫委員(日本公認会計士協会常務理事)が「私学を強くするためには、撤退もありうる。出たり入ったりは当たり前。マイナスにとらえるものではない」と言った。

これに対して、白井委員が「私学はずっといじめられているものですから。国公私の役割は同じことをやっている。競争原理と役割がどう整理されているのか。いい方法はいくらでもある。それなのに私立はだめだからつぶすというのでは、あまりにもひどい」「たとえば国立が中心になってもいいが、地域のコンソーシアム、学校群をどうするか、という自覚がないといけない」と述べた。他の委員からも白井委員の提言をめぐって活発な発言が続いた。

分科会長の安西祐一郎氏(慶応学事顧問)が「国立大学の関係者は、私学は何をやっているのかと思い、その逆もある。それを超えて議論してほしい。危機的状況をどうするかというペーパー(論点整理)だと思う」と引き取る形になった。

ふだんは低調になりがちな分科会の議論だが、白井委員の熱弁をきっかけに私学と国立の役割分担など、全体構図を描く必要性が強調されたともいえる。

この大学分科会の冒頭、委員に大学分科会の各部会を通じた論点についてという資料が配られた。委員らによると、「大学教育を一定の教員組織によって担われる学位プログラムとして構成することにより教育の質を保証(グローバル化、国際競争力の前提)」「各大学が、それぞれの個性・特色に基づき、機能別に分化」という論点が示され、この論点で各部会の提言や課題のうちいくつかを横断的に再構成することも可能と書かれていたという。

大学分科会は、テーマによって個別の部会に分かれ、全体像の議論がしにくい構造になっている。白井委員の発言にせよ、冒頭に示された論点にせよ、分科会の運営を見直し、大学全体の方向性と各部会のテーマを関連させる必要があると考えた。(山上浩二郎)

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