統合医療/研究教育体制を整えたい『河北新報』社説 2010年5月19日付

『河北新報』社説 2010年5月19日付

統合医療/研究教育体制を整えたい

西洋医学中心の医療に漢方やはり・きゅうなど古くからの療法を取り入れる「統合医療」の取り組みが、国レベルでも始まった。

厚生労働省は科学的根拠が乏しいことを理由に保険適用を制限するなど消極的だったが、現実に効果が報告されていることや、欧米で臨床研究が進んでいることから2月にプロジェクトチームを設置し、治験データの収集に乗り出した。

医療の専門化、細分化が進む中で、患者の体全体の調和を考える伝統的な療法が認められれば、疾患を多く抱える患者には朗報となろう。一部の大病院などで過剰な投薬が行われる現状にブレーキをかけ、医療費を抑制することも期待できる。

統合医療の認知度はまだ低い。アロマセラピーや温泉療法、ヨガなど範囲が広く、玉石混交との指摘もある。科学的データの蓄積、立証を進める一方で、大学での人材育成など教育研究体制の拡充を図り、安心して頼れる新しい医療の確立を目指してほしい。

統合医療は臓器別に診断する西洋医学を補完する考え方だ。学術研究の取り組みは早く、国の医療行政に先行して2000年に日本統合医療学会が発足した。

現在では全国のほとんどの医学部に「漢方医学」の講座が設けられた。東北大や慶応大などの基幹病院に「漢方外来」医局も設置されているが、医療界でも認知度は低く、スタッフも少人数の大学が多い。

治療には一部の漢方薬を除いて公的な健康保険が適用されない。普及が進まない最大のネックとされてきた。それでも東北大の漢方外来には、がん、神経疾患などの患者がはり治療などを求めて来院、予約は2カ月待ちという現実がある。原則自己負担にもかかわらず、望みを託そうとする患者層は広がりさえ見せる。

こうしたニーズの高まりが、医療重視を打ち出す新政権の重点施策に浮上させた。鳩山由紀夫首相は国会答弁で「健康維持のため、真剣に検討していきたい」と前向きに取り組む考えを表明し、2010年度予算に漢方を対象にした研究費10億円が計上された。統合医療を施した患者と、そうでない患者の症状を比較するなど学識者とともに検証作業を進める。

西洋医学の本場、米国やドイツでは統合医療の研究が盛んで、拠点施設も造られている。しかし、日本とは保険制度が異なる上、研究教育体制の厚みの部分で、はるか先を走っている。

日本医師会は「まずは議論が先」と慎重な立場で、鳩山首相が思い描く方向に向かうかどうかは今後の展開次第となる。

ただ、病院間で患者がたらい回しにされるなど、近代医療のほころびが表面化していることも確かだ。国は治療効果のデータを蓄積し、安全性が確かめられた療法から保険医療として認めるなど最適な方式で定着させてほしい。専門知識を深められる教育体制の整備も、統合医療の確立に向けた不可欠の課題と位置付けたい。

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