生き残りかけ研究開発 「三重大ブランド」次々誕生『中日新聞』三重版2010年5月17日付

『中日新聞』三重版2010年5月17日付

生き残りかけ研究開発 「三重大ブランド」次々誕生 

日本酒にカレーにバームクーヘン!?-「三重大学」と銘打った“ブランド商品”が次々と、生み出されている。三重大が県内の企業とタイアップしたユニークな商品で、滑り出しは上々だ。このような取り組みは全国的な流れで、国立、公立大の法人化や大学全入時代に入り、生き残りをかけた知恵の絞り合いが各地で続く。「大学ブランド」の最前線を追った。

生物資源学部の研究棟7階の久松真教授の研究室。本や書類がうずたかく積まれた手狭な部屋が“発信源”だ。

第1号の日本酒が生まれたきっかけは2006年秋。津市職員らが「酒造りを観光事業にできないか」と話を持ち込んできた。「まず学生で試しに造ってみて、感想を聞いてみることになった」と久松教授は振り返る。

寒紅梅酒造(津市栗真中山町)で、学生らが製造からラベルづくり、販売までを実体験。翌春、生まれたのが「ねごこち」など3銘柄だ。翌年は同窓会名から「三翠(さんすい)」と名付けたが、「この名の評判がイマイチだった」と笑う。

3、4年目には大学の農場で品種改良した酒米を使って製造し、「三重大學」名で直球勝負。「これが当たった」と久松教授。元が取れるようになり、今後は梅酒の販売にも乗り出す。

久松教授が次に狙ったのが同大の練習船「勢水丸」で出されていたカレーだ。桑名市の食品会社と共同で開発に着手。試行錯誤し、かつお節を隠し味に、和風レトルトカレーに仕上げた。

昨秋、2000個を作って大学生協で販売したところ、あっという間に完売。スーパーにも登場し人気だ。

久松教授は「企業の商品に大学名を付けるだけでは物足りない。大学独自の研究成果などを融合することが大切だ」と話す。

全国的には大学ブランド合戦の様相だ。「学市学座」と銘打ったイベントが12日から大阪で開催中。「いろんな大学グッズを集め、販売しよう」と、紀伊国屋書店が昨年から催す。今回は三重大など約50校の商品が並ぶ。

このような試みを加速させているのは、大学法人化や少子化が背景にある。国の交付金の削減などで国立大といえども厳しい時代に突入しており、「売り」を生み出すことが求められている。

三重大の鈴木宏治副学長は「地域や地元企業との連携は生き残りへの大きな柱。『地域圏大学』を売りにしていく。大学ブランドは目に見える形で結実した一つ」と話す。現在、医学系研究科などがかかわった健康食品なども販売。今後、せんべいやワインなども導入していく予定という。

【視線】

取材を通じ、大学の「今」が見えてきた。2カ月前まで名古屋で大学を担当していたが、国立大といえども変革を余儀なくされる現状を肌で感じていた。毎年、国からの交付金は削減され、研究費は奪い合い。色を出さなければ生き残っていけない。

三重大は「地域」に活路を見いだそうとしている。鈴木副学長によれば、東海地方の大学では中小企業との共同研究数はトップだ。地域の企業との連携から生まれたブランド商品は優良な広告塔になる可能性を秘めている。三重大の挑戦に期待したい。 (渡辺泰之)

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