『朝日新聞』2010年5月13日付
「山上浩二郎の大学取れたて便」
中教審大学規模経営部会
「冬の時代」へ 私立大に経営指導や情報公開促す
私立大学の経営基盤の充実について議論してきた中央教育審議会の大学規模・経営部会(第8回)が5月11日に開かれ、私立大学の経営改善を促す方策を盛り込んだ論点整理案をまとめた。この案は今後開かれる中教審大学分科会で了承される見通し。
18歳人口の減少と大学数の増加の影響で、入学定員割れと単年度収支がマイナスに転じる私立大学が増えている。定員割れを起こしている私大は2009年度で46・5%、短大は69・1%。また、納付金や補助金など負債にならない収入で人件費や教育研究費などの経常的支出をまかなえない学校法人は08年度で46・5%になっており、経営悪化が私立大学で進んでいることがうかがえる。この部会では、この私立大学の経営悪化をどういう戦略で対応するかを議論していた。
今回の部会で了承された論点整理の内容をみると、経営指導や相談の充実、募集停止に至るプロセスの透明性、財務経営情報の公開の促進に力点が置かれている。いずれも、その中心的な役割を担う組織として、ふだんは私学助成金を配分する役割を果たしている特殊法人「日本私立学校振興・共済事業団」(私学事業団)を積極的に活用するため機能強化する方向性が打ち出されている。
この部会の審議概要案で打ち出された具体的施策は以下のとおり(一部略)。
【経営相談機能の充実】
「リーダーズセミナー」 私学事業団で、理事長や学長などを対象に経営改革や教学改革の必要性についての問題意識を共有するセミナーを全国展開
「専門家の人材バンクを創設」 私学事業団で私学経営の専門知識をもつ人材を登録し、学校法人の要望に応じて活用する
「連携・共同の情報を収集提供」 私学事業団で、コンソーシアムや共同学部・共同事務局などの活用事例、学校法人の意向や要望を収集・整理・提供
「経営の分析、診断、指導・助言を積極的に実施」 経営悪化傾向の学校法人に早期の経営診断を受けるよう呼びかけ、経営改革のあり方の提案をする。経営状況や将来の経営見通しの分析、診断、指導・助言のための積極的な活用を図る
【経営改善を促進するための私学助成】
「募集定員に配慮した助成」 学則定員を下回る募集定員(一定期間)を考えた措置を講じるなど、適切な定員規模へ誘導
「定員超過への対応の強化」 定員超過した大学に対する補助金の減額措置を一層強化する。国立大学もその取り組みをさらに進める
【円滑な学生募集停止、学校再生の取り組みの支援】
「募集停止のガイドラインの作成・提供」 募集停止するうえで参考になる留意事項を整理したガイドラインを作成・提供。募集停止になるキャンパスの再活用を希望する学校法人を募集する選択肢を提示。学校再生のための専門家の人材バンクを創設
【財務・経営情報の公開の促進】
「情報公開の実施状況を私学助成に反映」 補助金の交付に際して情報公開の実施状況を勘案。財務・経営情報の公開について、すべての学校法人の実施状況を公表し、各学校法人のホームページにリンクできるようにする
同時に、審議概要をわかりやすく説明するため部会で配布されたチャート資料には、支援の柱として、(1)経営指導・相談の充実
(2)多様な機能に応じたきめ細かなファンディング・システムを充実
(3)情報公開の促進に向けた環境整備をあげている。
資料にある私立大学への具体的な支援方策のなかの最大のポイントは、項目として、「自立・発展」「連携・共同」という大学の支援策のほかに、現実的な「撤退」という項目を盛り込んだことにある。
具体的には、不採算部門を見極め学生の募集停止を実施→再生困難な部門を整理、と盛り込んでいる。さらに、課題として、経営者が早期の撤退に躊躇することや学生のセーフティネット整備の必要性をあげている。そして、新たな具体的取り組みとして、募集停止の留意事項をガイドライン化、転学生の受け入れ校に対する補助金を増額、学生の在籍担保、学籍簿の管理のあり方を検討、を盛り込んでいる。
この部会の議論は、私立大学の経営悪化を前提に議論を進めており、かなり機能的な方策をとる方向性を打ち出した。関係者の危機感は強く、「大学再生機構をつくってはどうか」という意見も出された。方向性を仕組みに変えていく努力が文科省に問われる一方、前提として大学側の自覚と自己努力が必要だろう。
今回の大学取れたて便は、新たな試みとして、中教審の内容を紹介した。