「平和」講義取り組む新潟大、学生サークルは… 存続危機も、下級生引き継ぐ『朝日新聞』新潟版2010年5月6日付

『朝日新聞』新潟版2010年5月6日付

「平和」講義取り組む新潟大、学生サークルは… 存続危機も、下級生引き継ぐ 

3日は憲法記念日――。平和や人権問題など憲法にまつわる問題は、ふだんの生活の中ではどうも縁遠い。新潟大学では平和について考える講義をずっと続けており、講義をきっかけに学生による平和サークルも生まれた。とはいえ、今どきの学生の間では「平和」を声高に語るのは流行(はや)らないようで、サークルは存続の危機。そんな中、何とかサークルを維持しようと踏ん張る新入生や、ニューヨークで3日から始まる核不拡散条約(NPT)再検討会議に参加する学生も出てきた。

新潟大では1994年から、「平和」をキーワードに国際活動の現場で活躍する人や、核開発の技術の専門家など多彩な分野からゲストを招き、それぞれの視点からの平和について説く「平和を考える」を開講している。

講義が生まれた背景には、大学の教職員らの苦い体験があった。

●教職員が「宣言」

第2次世界大戦では、核や武器の開発のために大学などの研究機関が手を貸した。同じ歴史を繰り返さないようにと、同大は88年、当時の教職員の過半数以上が賛同し、研究成果を戦争や軍隊に転用させない「非核平和宣言」を名古屋大や山梨大など他大学とともに定めた。そんな思いを「学生にも理解し、共有してもらおう」と、講義は始まった。全学部の学生が受講でき、年間1コマだった講義も、現在では3コマにまで増えた。それぞれ150人の定員に対し、200~300人の受講希望があるという。

講義の発起人のひとりで理学部の赤井純治教授は「若者は、心の底では平和問題について関心を持っている。ところが、学生同士の日常の会話の中では、お笑いやファッションなどの話が中心で、まじめな話は『ダサい』と敬遠される。授業をきっかけに、少しずつでいいから、平和に対してさらに深く考え、行動できる学生が出てくれば……」と期待を寄せる。

●受講生立ち上げ

そんな講義をきっかけに生まれたのが、平和サークル「平和を考える新大999」。約10人の受講生が04年、講義内容を掘り下げたり、平和に向けたイベントを開催したりしようと、自主的に立ち上げた。集うのは、文系も理系も関係なく、平和に対する熱い思いを持った学生たちだ。これまでに400人規模の講演会や、広島での原水爆禁止世界大会への参加、学内での署名活動などを行ってきた。

ところが昨年、メンバーが全員4年生以上になった。存続の危機に直面したが、ちょうどその頃、講義を受けていた新入生らが、別のグループで勉強会を始めた。そのひとりが現在の代表で法学部2年の久力奏音(くりきかなね)さん(19)だ。

久力さんは昨秋、赤井教授からサークルについて紹介された。はじめは「荷が重い」と入会をためらったが、平和への関心がまさった。久力さんは「実際に一緒に動いてくれる人が少なく、心が折れそうになったこともある」と振り返る。

しかし、「サークル活動を通じて多くの人に出会い、勇気をもらった。核や戦争は遠い存在だと思っている人たちとの温度差を少しずつ、埋めていきたい」と目を輝かせる。

細々とではあるが、確実に、平和に対する熱意は受け継がれている。

(高岡佐也子)

◆法学部の佐藤さん、渡米してアピール行動参加 米できょうからNPT再検討会議

「戦争になったら、僕は戦地には行きたくないな」

小学生のころ、漠然と考えていたことを思い出す。新潟大法学部2年の佐藤博亮(ひろあき)さん(19)は、気が付けば勉強やアルバイトばかりの大学生活を送っていた。ところが、「平和を考える」講義を受けていたある日。そんな日常を変えるきっかけが訪れた。

講義を主宰する赤井教授が昨年暮れ、ニューヨークで5月にある「核不拡散条約(NPT)再検討会議」に参加する学生を募った。佐藤さんのまぶたの奥に、高校2年で行った広島への修学旅行の体験がよみがえった。原爆ドームの無残な姿、日本軍の補給隊員だった男性被爆者の体験談……。「そこへ行けば変われるかもしれない」と、気付けば手を挙げていた。

ニューヨークでは、世界中から核廃絶に向けて集まる人らとともに、アピール行動に参加する。学内の平和サークルのメンバーと一緒に作った、折り鶴でできた絵も持って日本を飛び立った。

「核問題のもとに世界中から集まる人たちの熱気を感じてきたい。世界で唯一の被爆国の人間としてできる限りのアピールをしたい」

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