医学部定員増/受け入れ態勢の構築を 『河北新報』社説 2010年3月29日付

『河北新報』社説 2010年3月29日付

医学部定員増/受け入れ態勢の構築を

地方の医師不足対策がまた揺らいでいる。文部科学省は3年前から大学医学部定員増による医師数の底上げを図ってきたが、教育現場からは教員数や設備面が追いつかないとの声が上がる。定員増計画を長期的な視点でとらえ直し、関係機関が綿密に擦り合わせながら丁寧に進めることが求められている。

全国約80大学の医学部長らでつくる「全国医学部長病院長会議」が先月、定員増は慎重に進めるよう求める要望書を民主党と文科省、厚生労働省に提出した。定員増作戦は即効薬とばかりに前政権から新政権になっても受け継がれ、官庁、大学を挙げて取り組んできた。それだけに逆コースと受け止められた。

医学部定員は1984年度の8280人をピークに減り、2007年度には7620人にまで減少した。将来の医師過剰を見越しての対応だったが、若手の医局離れや新臨床研修制度の導入などで大都市に医師が集中し、地方で勤務医や産科医、小児科医などが足りなくなった。

文科省は従来の方針を転換し、各大学の入学定員枠を10~15人ずつ広げ、3年間で1200人を純増。全体で過去最多の約8800人(10年4月時点)となる。だが、教員数を増やさなかったことで教える側の負担は重くなった。臨床実習などの少人数教育で目が届きにくいなどの支障が出始め、教育指導面への影響が懸念されている。

民主党は政権公約で、定員増と医学部新設により医師養成数を1.5倍にするとうたった。その数は約1万2000人。人口1000人当たりの医師数(2.1人)を経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の3.1人にするという。

医学部長会議の要望書は「3年間で12~13の学部を新設したのも同様。急激な定員増、医大新設は多額の設備投資と教員確保が必要となる」と訴える。教員要員として「地域病院の30~40代の勤務医を大学に連れ去ることになり、かえって地方の医師不足を加速させる」と憂慮している。

教育現場のスタンスは明確。東北大医学部の説明では、教員不足がさらに進むほか、現在の手狭な施設では受け入れ困難、新たに教育棟を建てる余裕もない―との立場だ。

今になって受け入れ態勢の問題が表面化したが、学生数だけ増やし続けてもいずれパンクすることは明らかだったのではないか。定員増と並行させての教員配置、規模拡大を見込んだ施設、環境整備などに目配りしてこなかったつけが回った。

責任が重いのは、民主党も同じである。公約実現までの手法やスケジュールなど具体案を明らかにせず、進展のないことが迷走を招いた。一日も早くたたき台を示すよう求めたい。

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