始動 北の拠点-自動車産業集積の未来 第3部=挑戦(2)突破口/産学連携で参入へ新技術 『河北新報』2010年3月18日付

『河北新報』2010年3月18日付

始動 北の拠点-自動車産業集積の未来
第3部=挑戦(2)突破口/産学連携で参入へ新技術

仙台市若林区の工場の一角で、新しい素材による自動車部品の開発と製造技術の研究が精力的に進む。

精密機械加工の本田精機(仙台市宮城野区)は一昨年、弘前大や東北大と共同で微細結晶材料の加工研究を始めた。溶かした鉄を急速に冷やしながら高速回転させると結晶が細かくなって強度がアップし、磁気特性も向上する。この材料を自在に成型する技術を確立して次世代車向け部品に仕上げ、自動車関連企業との取引を目指す。

もともと本田精機は磁気テープの生産設備製造を得意とした。だが磁気テープ需要は急減し「今後の飯のタネ」(本田力雄会長)として自動車分野に目を付けた。今、工場には弘前大や東北大の研究者が頻繁に訪れ、技術指導に当たる。本田会長は「専門家は最先端の理論を持っていて頼りになる」と技術開発に意欲を見せる。

<「進む道見える」>

トヨタ自動車グループのセントラル自動車(神奈川県相模原市)本社工場の宮城県移転など、東北で自動車産業の集積が進む。だが東北の企業が新規参入を目指そうにも、生産ノウハウと技術の蓄積は薄い。そこで参入への「突破口」と位置付けられているのが産学連携による新技術や独自製品の開発だ。

岩手大工学部の平塚貞人教授(鋳造工学)は昨年、奥州、山形両市などの6社と鋳物の品質を上げて自動車部品の高機能化を図る研究を始めた。平塚教授は「関東自動車工業岩手工場やセントラルが現地調達を進めることをにらんだ」と言う。

研究メンバーのうち金型製作の前田鋳工所(奥州市)は、車体用鋼板をプレスする金属部品の耐久性を高めることで自動車産業への参入をもくろむ。前田俊一社長は産学連携のメリットを「大学はしっかりした評価手法を持っており、自社技術の問題点を把握できる。次に進むべき道が見える」と強調する。

<先端動向つかむ>

新規参入や取引拡大で武器となる新技術だが、東北は車メーカーの設計・開発機能が乏しいというハンディを抱える。車の設計開発は数年先の量産を見据えて進められ、頭脳拠点が近くにないことは技術動向の先読みで圧倒的に不利だ。

東北大が2月に開設した産学連携拠点の「情報知能システム(IIS)研究センター」は、こうした弱点を補う一つの仕掛けを施す。車メーカーとの共同研究で実験や試作を東北の企業に依頼することで、地元企業が最先端の技術動向をつかみ、量産にも参加できる糸口としたい考えだ。

IIS研究センターの青木孝文教授は「これまでの産学連携は大学と車メーカーだけで進むことが多かった。大学は地域に貢献したいと考えており、地元企業の参加を通じ東北に新技術が根付くようにしたい」とビジョンを描く。地元企業に「敷居が高い」と敬遠されがちだった「学」も、新たな地域産業の形成に役割を果たそうと本腰を入れ始めた。

◎メモ/東北の産学連携

東北各県の自動車産業振興組織には理工系を中心とする大学も加盟し、大学のシーズの活用策を探っている。東北大大学院工学研究科は昨年10月、トヨタ自動車向けの商談会に出展したほか、「次世代移動体システム研究会」を設立。地元企業とともに電気自動車などの技術研究も進めている。

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