科学技術予算:編成過程、様変わり 総合科学技術会議の存在大きく 『毎日新聞』2010年3月2日付

『毎日新聞』2010年3月2日付

科学技術予算:編成過程、様変わり 総合科学技術会議の存在大きく

日本の科学技術政策が転換期を迎えている。その象徴が、司令塔となる総合科学技術会議(議長・鳩山由紀夫首相)の改革だ。昨秋の政権交代以後、会議の運営が大幅に変わり、新政権全体の改革案を試行する役割も担うようになった。「事業仕分け」で注目を集めた科学技術予算も、編成プロセスの大幅改変が進行中だ。【奥野敦史】

「予算編成のあり方を変える画期的な話だ」。2月3日、総合科学技術会議本会議を鳩山首相はそう締めくくった。「画期的」とは同会議が策定を進める「科学・技術重要施策アクション・プラン(AP)」のことを指す。

◆限られていた影響力

政策の中身は予算の配分で決まる。次年度の予算は通常8月に各省庁が財務省に概算要求を提出。同省の査定を経て、年末に政府原案が作られ、年明けの通常国会に提出される。その中で、科学技術予算は同会議が科学者の視点で編成に関与するのが大きな特徴だ。

しかし、これまでの自民党政権では、実際の影響力は限られていた。同会議は従来、1月に「科学技術政策上の当面の重要課題」、6月に「資源配分方針」を策定してきた。どんな事業に予算をつけるかを示すものだが、いずれも同会議が単独で作り、予算を組む省庁との連携はなし。秋には概算要求を事後評価する「優先度判定」を行うが、要求の各項目をランク付けするだけで、同会議独自の政策提案は望むべくもなかった。

◆概算要求に先回り

この「受け身」のスタンスを逆転し、科学技術予算編成の主導権を同会議に移す取り組みがAPだ。具体的には、各省庁が概算要求を仕込み始める春~初夏に、それに先回りして「取り組むべき政策」を示す。「予算を増額したい政策」を名指しして予算確保を求めたり、省庁間で重複する政策の排除も行う。

作成には各省庁も参加し、概算要求はAPに沿って作る。11年度予算のAPは、環境、健康関連の課題解決型研究と競争的資金制度改革の3点に絞って作成中だ。

AP新設の背景を、科学技術担当の津村啓介内閣府政務官は「(科学者、産業界代表からなる)有識者議員から『専門家として科学技術予算に責任を持つ立場なのに、編成に関与できていない』との不満、問題提起があった」と説明する。有識者議員の相澤益男・元東京工大学長は「政権交代以降、政務官と有識者議員の情報交換が急増し、議論を政策として実現する道筋ができた。APはその成果」と評価する。

◆財務省も協力要請

予算編成への関与の強化につれ、心配されたのは財務省の反応だ。1月、同会議は財務省の大串博志政務官と担当主計官を呼び、初の意見交換を行った。

「各省から要求が出た後にゼロにするのは難しい。要求の段階から総合科学技術会議を含む皆で議論したい」「重点テーマに各省が同じような予算要求をする。順位付けなどに知恵を貸してほしい」。財務省から出たのは意外にも同会議の協力を求める声。議員からは「画期的な情報交換」との声が出た。

APが示した省庁横断、重複排除、トップダウン型の予算編成は、民主党政権が昨秋打ち出した「予算編成改革」の柱でもある。元々、省庁横断型で「各省より一段高い立場」(同会議ウェブサイト)にある同会議は、改革のモデルケースとして絶好の舞台なのだ。この取り組みの成否は、政権全体の改革の行方を占うとも言える。

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