教員養成6年制、議論始動 免許更新制と調整 課題 『朝日新聞』2010年2月15日付

 

『朝日新聞』2010年2月15日付

教員養成6年制、議論始動 免許更新制と調整 課題

先生の質を高めるため、免許制度を抜本的に見直し、大学の教員養成課程を6年制(修士)とする――。民主党マニフェストに沿った動きが文部科学省で始まった。ただ、今の4年制ではいけないのか、6 年制にすれば、いい先生になるのか、免許更新制との関連は。詰めなければならない課題は多い。文科省の動きと方向性を考えてみた。 

文部科学省内で1月中旬から週1回、教員養成の改革に向けた論点整理をする会議が始まった。副大臣や事務方の文科審議官をトップに関係局長、課長も出席するなど、改革に向けて意欲を感じさせる布陣だ。教員の資質向上についての意見を、大学関係者や学校、保護者から求めることも発表。今の養成システムの課題や提案を大学に求めたり、ネットで募ったりする。提案は3月まで受けつける。 

春には中央教育審議会(文科相の諮問機関)に、改革を議論する新たな部会を設ける方向で検討している。 

鈴木寛・文科副大臣は、さまざまな場で、「教員養成の新たな仕組みを盛り込んだ法案を2011年の通常国会に提出する」と述べている。言葉通りなら、今秋には法案のもとになるシステムの骨格を固める必要がある。議論は、この春から秋までがヤマ場となる。 

当初、民主党マニフェストの記述もあり、教員養成を現行の4年から6年にする「6年制」に焦点があたってきた。多くの課題を抱える学校現場で悩む教員の質を、修士での免許状にすることで知識、対応力をアップさせる考え方だが、そもそも「4年制で育った教員のどこに問題があるか」についての議論は明確ではない。むしろ、最近は「教員の質向上」という基本に立ち返った議論が強調され始めた。中教審総会でも鈴木副大臣は教員養成の改革について、6年制のうちの修士期間2年に言及し、「2年かどうかも含めて議論してほしい」と話した。 

■過去の改革は細切れ 

教員の養成システムは教育の質の向上の核心につながる。改革の歴史をみると(1)大学組織とカリキュラム見直し(2)採用後に行政が研修などを設定・義務化が細切れに繰り返されてきた。 

戦前、初等中等教育の教員は、各都道府県の師範学校で養成された。さらに師範学校などの教員を育てる役割は、高等師範学校が担い、教員を専門家として育てる体系ができていた。戦後は、戦争への反省もあり、教員は免許状取得者でなければならない「免許状主義」と、国公私大を問わず、教職課程を修了すれば免許が取得できる「開放制」が原則となった。 

その後の大きな改革は、60年代に小中学校、とりわけ小学校の教員を養成する母体を国立大の教育学部に集中させたことだ。教員になった後の研修にも力を入れ、質を向上させるという考え方が80年代の臨時教育審議会以来強く出され、初任者研修なども導入された。00年代では10年目の研修を義務づけた。 

06年度には「免許更新制」と「教職大学院」導入が決まった。更新制は10年ごとに大学などで講習を受けて免許を更新する。大学院は、新たな知識を身につけて質を向上させることを狙い、学部卒の学生が進むコースと、現職教員らが教育委員会などから派遣されて学ぶコースがある。更新制は09年度、教職大学院は08年度に始まった。 

■長期実習 一部で導入 

6年制導入議論で検討課題の一つになりそうなのは「実際に教壇に立つ前に、どの程度、実践を積ませるか」という点だ。 

今の教育実習は2~4週間程度。そんな中、福井大は、採用試験に合格し、教職大学院に進んだ院生に1年間の長期教育実習を導入している。教職専門性開発コースの院生は週3日、地元の小中学校に通う。学校の年間サイクルを理解して仕事を学ぶのが特徴だ。1月下旬、福井市至民(し・みん)中学校で、2年生の理科の実験が行われていた。担当教諭が、鉄と硫黄を化合させる手順を説明した。生徒は物質をくるんだアルミホイルを手に「これでいいですか?」と大学院1年の中山侑子さん(23)に尋ねた。中山さんはうなずきつつ、「触ったら手を洗ってね」。教室の後ろでは大学院の松木健一教授が見守る。 

授業の翌日、大学院で院生と大学教員が参加して振り返りや報告をする「カンファレンス」があった。中山さんは松木教授から「昨日の実験であなたならどんな授業をやるの?」と問われ、考えた後、「予想を立てさせるとか。でも難しい」と悩んだ。他の院生も一緒に、よりよい授業にし、生徒の理解を深めるためにどうしたらいいかの議論が続いた。 

実習が短い学部時代と違い、いずれの院生も「学校から『お客さま』扱いされない」。08年度に至民中に通った2年の青柳宏治さん(24)は「学部時代は授業のやり方を見るだけで精いっぱい。子どもの学びの姿や先生が力量を高めようとしている努力を見て、目指すべき教師像が描けた」と話す。院生を受け入れる学校側の負担はどうか。至民中の津田由起枝校長は「お互いにメリットがあり、負担だとは思わない。いろいろな立場の人が学校にいる方が子どもの社会性を育める」と話した。 

長期実習で教員の質を高めようとする「福井方式」は広がるのか。大学院の寺岡英男・教職開発専攻長は「大学で学んだ理論と実習のサイクルが力量を高めていく。それには1カ月では足りない」。そのうえで「大学院の教員が研究室にこもらず、学校を拠点に協働研究に取り組み、学校側も教員や院生を受け入れるのが望ましい」と話す。 

■海外の教員養成制度は? 

海外の教員養成制度(主に公立の小中学校教員)はどうなっているのか。文科省のまとめでは、大学の教員養成課程とインターン制度、採用試験、更新制などを組み合わせた国が多い。 

米国は、州の制度で学士号の取得が要件となっている。特徴的なのは有効期限付きの免許を発行し、上級免許への更新を義務づけ、最終的に終身免許を発行するなどの仕組みだ。 

英国は、高等教育機関または国から認定された教員養成課程の修了が要件。フランスは採用試験に合格後、1年間の試補(インターン)勤務の後、審査に合格した人に与えられる。ドイツは大学で学び、国家試験合格または修士号取得のあと、試補勤務後、第2次国家試験に合格しなければならない。(見市紀世子、編集委員・山上浩二郎)

 

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