愛媛大60年 はぐくみ続けたい地域の財産 『愛媛新聞』社説 2009年11月16日付

 

『愛媛新聞』社説 2009年11月16日付

愛媛大60年 はぐくみ続けたい地域の財産

戦後の教育改革で多くの新制国立大学がうぶ声をあげたのは1949年。教育の機会均等を旗印に、官立学校を合併して大都市部などをのぞく一県一大学を実現した。 

愛媛大もそのひとつだ。松山高等学校、愛媛師範学校などを母体に創立。6学部7研究科に約1万人の学生を擁する総合大学に育った。 

その愛媛大が60年前に開学式を開いた日と同じ今月11日、記念式典があった。 

県内を中心に高等教育のニーズにこたえ、また研究成果を地域へ還元してきた。地域医療でもリーダー役を担う。そんな姿勢が支持されればこその60年といっていい。 

おとといは学術研究活動の成果を展示解説するミュージアムがオープンした。国内屈指の昆虫標本コレクションをはじめ自然科学から人文科学まで見ごたえがあり、さっそく高い関心を呼んでいる。 

難解だと敬遠されがちなテーマを研究室から解放、県民にふれてもらう試みだろう。開かれた大学の象徴といえ、大いに活用したい。 

これら大学の存在意義を県民もかみしめ、地域の財産としてさらにはぐくみたい。 

少子化・全入時代で大学経営は厳しい。拍車をかけたのが国立大学法人移行だ。 

人事や予算の面で裁量が増す一方、国からの運営費交付金は毎年削減され、大学はコスト削減や外部資金の獲得を迫られるようになった。 

とくに問題視されるのが、中期目標を文部科学省が決定し、達成度合いなどを予算配分に反映する仕組みだ。文科省が過剰に介入する余地を残すうえ、そもそも短期的成果を要求する競争原理が大学の研究になじむのかという疑問がぬぐえない。学問の自由に照らしても問題だろう。 

そうした状況でも愛媛大の実績には目を見張る。 

たとえば文科省のグローバルCOEプログラムに沿岸環境科学と地球深部ダイナミクスの両研究センター、政府の革新的技術戦略に無細胞生命科学工学研究センターが選ばれた。先端ぶりの証明だ。 

国際活動としてインドネシアとの交流に乗り出す一方、県政の課題である南予活性化に力を注ぐなど地域貢献にも熱心で、県民には心強い。 

ただし何十年も前の素粒子理論などで昨年、日本人がノーベル物理学賞、化学賞を受け、地道な基礎研究の大切さを再認識させたのは記憶に新しい。これも大学の本分で、要はバランスだろう。 

その点もふまえつつ教育・研究の質をより高めて県民にも知られるよう努めれば、愛媛大への意識は変わるにちがいない。人材流出県に甘んじる本県には大きな刺激だ。 

70、80周年へむけ、人材結集の拠点となることも愛媛大に期待される役割だろう。

 

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