独行法反対首都圏ネットワーク

独行法情報速報  No.8    特集:文科省の目指す大学像 
2001.9.12 [he-forum 2533] 独行法情報速報  No.8    特集:文科省の目指す大学像

独行法情報速報  No.8    特集:文科省の目指す大学像

2001.9.13独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局

開示
文科省調査検討会議が「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)(案)」を提出。
◎ 8月9日版=http://www.bur.hiroshima-u.ac.jp/~houjin/menu.htm
◎ 8月9日版とそれ以前の案との異同表=http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010809tyuukanhoukokuidohyou.htm
◎ 9月6日版=http://www.bur.hiroshima-u.ac.jp/~houjin/mon-1.htm#no.103
◎ 9月6日版と8月9日版の間の異同表=http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010909idouhyou.htm

分析1

遠山プランと大学改革

○「遠山プラン」は、「大学の豊富な知的資産を企業活力に結び付けて産業活生化を図る」(平沼赳夫経産相、日本工業新聞7月31日)という経産省の平沼プランを受けて形成された。ここで重視されている分野は4分野に限定されている: ライフサイエンス、IT(情報技術)、環境、ナノテクノロジー・材料。
○産業競争力優先の「改革」を目指して、文科省と経産省は産学連携に関する報告書をまとめ、政府の総合科学技術会議は、8月3日に「産学官連携ワーキンググループ」を発足させた。こうした「改革」は、大学の組織や税制、公務員制度の改変を含む包括的な政策を目指しており、大学改革問題は質的に変化し、「構造改革」全般と関連する問題になったことを示している。
○文科省と経産省の「歩みより」については、青木昌彦他編『大学改革課題と争点』(東洋経済新報社、2001)を参照。経産省の澤氏は、これを文科省の「コペルニクス的転回」と呼んでいる(8月23日河合塾シンポジウム)。経産省と文科省の連携は、さらに、「技術人材240万人能力開発総合推進プログラム」(即戦力技術者の大量育成5カ年計画)。大学への特許専門家の派遣や起業促進が謳われている。

遠山プランの現状

○再編統合: 現在は、13の単科医科大、4つの単科大学を中心に再編統合問題が具体化している。このうち、水産・商船、図書館情報大学、山梨総合大学については、すでに統合の概要、合意書が明らかとなっている。8月〜9月にかけて報道されたのは、大分・大分医科、福井・福井医科、富山・富山医科薬科・高岡短大、高知・高知医科などである。これに加え、埼玉大では周辺諸大学との連合を、信州大は大学内部の学部再編を検討していると言われる。なお、参照、「全国99
国立大統廃合マップ」『週刊朝日』2001年9月7日号、pp.34-36. 国大協WGの「再編指針案」(『東京新聞』2001年8月31日付)によれば、公立大を国立大が吸収する形での合併案まで出されている。
○国立大学法人: 8月9日に文科省調査検討会議が「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)(案)」を発表。これは9月6日に「中間報告(案)」として再び未定稿が出された。9月中に「中間報告」として確定される予定である。2002年3月最終報告。2004年4月(最短2003年4月)から、法人化。基本的には、独立行政法人通則法プラス民間的発想の経営手法、という構造。トップダウンの運営、「外部者」の教学・経営への参入、組織の流動化、人事の流動化(含、ワークシェアリング、任期制、インセンティブ、裁量労働制)。首都圏ネット事務局の分析メモを参照。これに対しては、講座制批判と非公務員型という強い主張(尾身、8月30日日本工業新聞社シンポ)がある。
○地方軽視との批判:高知新聞社説(9月9日付)は、国立大学の法人化を文科省の権限強化の下の「非独立法人」と名付け、地方軽視のあらわれと批判している。
○「トップ30」: 2002年度から、国公立や私立も含めて大学の研究分野ごとに有識者十人あまりの審査会を設けて研究や教育の成果を評価する制度を導入し、それぞれの分野の上位三十校程度には、研究費の補助など予算を優先的に配分する方針を固めた。2002年度は422億円を重点配分との報道。以下は、『河北新報』8月30日付の報道。「原案によると、来年1月以降に各大学から、どの分野でどんな成果を目指すかをまとめた研究計画の提出を受ける。4月に外部の有識者らによる審査委員会を発足させ、7月以降に審査、決定する。対象は「生命科学」「医学系」「数学、物理学」「化学、地球科学」「情報・電気・電子」「機械・材料」「土木・建築、その他工学」「人文科学」「社会科学」「学際・その他」の10分野。」

分析2

『中間報告(案)』の描く大学組織

8.9版、9.6版に関する首都圏ネットワーク事務局の分析メモ*をもとに再編(文責:本センター事務局)
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010822netmemo.htm,
http://www.ne.jp/asa
hi/tousyoku/hp/010830daigakuzou.htm,
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010912tyuukanbunnseki.html

1.国家による大学支配が貫徹される。

(1)「国の政策目標」→「大学の長期目標」→「業務方法書」(文科相認可)→「中期目標」(文科相策定)→「中期計画」(文科相認可、相当部分が数値目標)→各「年度計画」(通則法31条)というサイクル。9.6版では、「国の政策目標」が「国
のグランドデザイン」に替えられたが、本質に変わりはない。
(2)9.6版では、(業務の範囲)に産官学連携強化の項が追加され、「遠山プラン」による“新産業創設機関化”が大学の業務として定式化されている
(3)四重の評価システム(総務省政策評価・独立行政法人評価委員会*、文科省大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学の評価組織)と連動する運営費交付金の配分、組織の改廃。注)*:『中間報告(案)』が基本的にすべて通則法に基づいて構想されていることに留意すれば、総務省におかれる「政府全体の政策評価と独立行政法人評価のかなめ」としての「政策評価・独立行政法人評価委員会」が、文科省大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学の評価組織の上にのしかかることは必至であろう。

2.教特法は法的にも、実質的にも廃止される。

8.9案への批判を意識して9.6案では「憲法」に基づく「学問の自由」と「大学の自治」の言葉が現れるが、大学の自治を実定法上で保証する「教育公務員特例法」が葬り去られている。現在の独法化・法人化問題の本質的な狙いの一つが、教員の身分保証に基づく学問の自由と大学の自治を破棄することにあるを、9.6案は鮮明にさせた。

3.学外者という名の官僚群による大学経営部門の乗っ取りが行われる。

(1)「民間的発想の経営手法」を標榜し「学外者=民間人」を装ってはいるが、実際には、文科省と他省庁からの「天下り」官僚群が、役員および役員以外のスタッフの大半を占拠し、経営部門の実権を掌握することになろう(産総研の実例を見よ!)。
(2)「大学運営の専門職能集団」としての事務組織は、官僚に乗っ取られた大学事務局の実行部隊となる。“当分の間”、この専門職能集団は、本省人事として全国を異動する。専門職能集団の下に、“柔軟な雇用制度”による非正規職員、派遣労働者等が配置されよう。
(3)9.  6案においては、さらに一歩進んで、“経営に学外者とともに教員が責任を負う場合は、教学にも学外者が責任を負う、つまり関与、干渉する。さもなくば、経営と教学を分離し、経営は学外者が責任を負い、教学は教員が責任を負う。”という二者択一を要求している。
(4)「遠山プラン」による統合が進めば進むほど、官僚組織は強大になる。なぜなら、分権的で現場に権限のある自治組織にはこのような組織は不要であるが、合理性のない“タコ足”統合によって出現する巨大大学は、肥大化した管理組織によってしか動かすことはできないからである。それは、スケール・デメリットによる非能率・非効率の蔓延をもたらすであろう。

4.文科省に生殺与奪権を握られた学長による専制体制が構築される。

(1)学長は、文科相に任命された監事と、罷免発議権を持つ文科相に、生殺与奪権を握られる。
(2)学長は学内においては専制体制をとることが可能となる。個別教員選考人事にさえ、助言という名の介入を行うことができる。部局構成員による部局長選考も、学長選考同様困難になる。かくしてチェック・アンド・バランス機能を有する現行運営システム(執行責任者としての学長と、最高決定機関としての評議会)は最終的に崩壊し、硬直したトップダウン体制が成立する。

5.基礎組織としての部局、学科の基盤は極めて不安定になり、間断なき再編が進行する。附属諸施設の大学から分離、民営化、廃止等が容易に行われる。

(1)自治の基礎単位としての部局(学部等)という位置付けは廃止され、設置の法令上の根拠も、省令に格下げされる。部局教授会の権限は極めて限定される。部局固有の職員数も学長の権限で容易に変更できる。
(2)学科については、予算をにらみながら学長専決体制下の各大学で随時改廃が可能となる。
(3)様々な付属施設を大学から分離できる。
(4)上記の措置によって、教育研究組織の改廃、分離が容易に可能となる。

6.教職員の共同・協力態勢は破壊され、ノルマの荷重と管理された競争=ラットレースが進行する。

(1)各人に対する勤務評定が実行され、人事考査による賃金決定がなされる。教職員間の賃金格差は拡大する。財政基盤の強弱に対応して、大学間の賃金格差も発生する。
(2)教育公務員特例法は機能を停止させられ、廃止される。教育公務員特例法の「精神」は各大学の諸手続きのなかに引き継ぐとあるが、法令上の根拠を失い、身分的不安定さは増大する。
(3)教員は部局から切り離され全学教員組織に編入された上で、研究組織、教育組織、運営組織に“派遣”されることになろう。
(4)教育研究の現場における支援業務は、「柔軟な人事制度」に基づく極めて不安定な雇用形態の非正規職員と派遣労働者等によって担われる。彼ら・彼女らは低賃金のままに据え置かれよう。
(5)経営方針に従属した定員管理が徹底される。学外者役員等の存在は不可避的に人件費(退職金を含む)を増大させるが、一方で管理的経費の削減を中期計画に盛り込むことが強制される。このため、教育研究現場の定員削減はいっそう厳しく追求されよう。
(6)任期制、「ワークシェアリング」、裁量労働制の導入と拡大、多様な雇用形態は、時空の共有と固有の職域の尊重によって成立する共同・協力態勢を著しく困難にする。分断化された教職員は、管理された競争=ラットレースを強いられる。

7.四重の評価への対処が通常業務を占拠し、評価のための教育研究という倒錯した事態が蔓延する。

(1)総務省政策評価・独立行政法人評価委員会、国立大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学評価委員会という四重の評価機関が、予算配分と改廃勧告の権限と直結して、教育研究の現場を事実上支配することになろう。評価基準を“客観的”するために、本質とは無縁な「数値目標」が自己目的化する。
(2)間断ない評価の繰り返しによって通常業務は著しく阻害されるばかりでなく、遂には評価のための教育研究という倒錯が起ることは避けられないであろう。

8.総予算の縮減下で、予算の重点配分が強行される。

(1)先行独立行政法人の中期計画に例外なく強要された「自己収入増大+管理的経費削減(5年間で10%)」が、確実に適用される。
(2)標準運営費交付金は圧迫され、評価に基づく配分(特定運営費交付金)が支配的となる。
(3)大学間、学部間で授業料(学生納付金)の格差が発生する。
(4)付属病院における利潤追求への傾斜は避けられない。
(5)「民間的発想の経営手法」を謳ってはいるが、評価に基づいて配分される運営費交付金に依存する以上、自律的経営は事実上不可能である。経営能力とは、結局のところ、中期目標における人件費削減とその他の数値目標達成の「能力」に矮小化されよう。

9.大学の種別化が一挙に進行する。

(1)「国の政策目標」に整合的な「長期目標」と、文科相策定による「中期目標」によって大学は研究で3段階、教育で4段階の7種類に区分される(イメージ例参照)。
(2)この種別化は、現存する大学間格差を前提に進められる。
(3)さらに「遠山プラン」は独法化以前に再編統合を進め、トップ30体制を入口で形成しようとしている。大学間の格差は決定的に拡大し、しかも「中期目標」によって固定される。

10.かくして固定的で流動性のない沈滞した大学群が出現する。

(1)裾野なきトップ30体制で、トップ30自身も沈滞・瓦解の危険に陥る。大学種別化の固定と格差の拡大は、大学間における人的・学問的交流を確実に阻害する。流動性は現在の大学システムよりも質的に低下することは避けられない。
(2)トップ30以外の「その他」大学は著しい財政的困難に陥る。第1期の中期目標期間後は、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会からの廃止勧告もありえよう。大学から分離された諸施設は最終的には民営化か廃止。「自由な競争」は欺瞞にすぎない。
(3)任期制の導入は、とりわけ若手研究者の養成を著しく困難にする。後継者養成に失敗するならば、大学は沈滞し、最終的には存続が不可能となる。
(4)大学間の生存競争が、大学間の共同・協力態勢にとってかわる。システムとしての大学は崩壊する。

【寄稿】教養教育改革問題
 9月3日に教務委員長会議、9月6日ー7日にコア科目調整会議が開催された。
 教務委員長会議では、8月31日現在のコア科目履修希望単位数・科目名集計表、コア科目別受講者数、コア科目別必要講義数・平均受講者数、およびコア科目開講・履修の考え方(案)等が提示された。コア科目調整会議では、10のコア科目毎に、担当学部または専門教官集団(サプライ側)の代表と希望学部・学科(デマンド側)の代表が大学教育委員会に召集され、その授業内容と実施可能性等が協議された。受講希望数が多いコア科目では、担当学部・専門教官集団に持ち帰り検討を用するころもあり、流動的な部分もあるようである。
 このように、強引な進め方を始め色々な問題点を残しながらも、コア科目の設置を中心とする教養教育改革は、平成14年度実施に向けてさらに一歩が進められた。今後は、デマンド側とサプライ側の必要コマ数・授業内容の調整を一層進め、具体的な時間割編成を進めるとのことである。コア科目開講・履修の考え方(案)では、「履修を希望する学部の時間割で、英語・情報処理・全学運営専門基礎実験・学部運営専門実験の授業科目が開講されていない時間に開講する」となっている。9月14日には普遍教育等時間割編成専門委員会が専門基礎科目教官集団主任も出席して開催される予定である。
 8月31日現在のコア科目別受講者数・履修希望学部は、(1)心と行動(1745;育、法、理、医、薬、看、工、園)、(2)歴史学(1100;育、法、理、看、工、園)、(3)法と経済(1568;文、育、理、医、看、工、園)、(4)哲学と倫理(1910;育、法、理、医、看、工、園)、(5)文学(487;育、看、工、園)、(6)物質の世界(183;育、看、園)、(7)数理の世界(327;文、法、薬)、(8)生命科学(973;文、育、法、看、工、園)、(9)先端技術(630;育、法、理、医、園)、(10)環境と地球(1029;育、法、医、看、工、園)となっている。(1)ー(5)は文系科目、(6)ー(8)は理系科目、(9)ー(10)は混合型科目である。学科レベルでのデマンド分布はずっと複雑なものとなっている。文学部では、行動科学科を除いて他の3学科では希望コア科目の指定を行っていない。また、コア科目の各授業の受け入れ人数は、教室の収容人数を勘案して120人(混合型コア科目は150人)となっている。
 もとより今回の改革を評価する段階ではないが、平成14年度実施に当たり2−3問題点を指摘しておきたい。
1.受講希望人数が多いコア科目の幾つかでは、担当教官集団から、必要授業数を立てることが困難な実状が述べられたようである。大学教育委員会、デマンド側、サプライ側が十分協議しそれぞれが納得いくように進めて頂きたい。
2.コア科目調整会議においても、デマンド側からの要望とサプライ側から提示される内容が食い違っている場合が多々あったようである。これまでの個別科目をコア科目に移すだけでなく、必修科目としてのコア科目に相応しい授業内容を作り上げるべく一層協議をすすめて頂きたい。
3.コア科目の開講・履修の考え方(案)では「コア科目の授業は自由選択科目には認めない、すなわち履修を希望する学部・学科等の学生以外の受講は認めない。」となっており、学部・学科が指定しなかったコア科目は、それらの学部・学科の学生が履修したくても履修できないことになっている。これらの学生の学習意欲を尊重し、学習権を保証するために、コア科目に相当する授業科目を個別科目としても開講する必要があると考えられる。学部・学科のコア科目指定が必ずしも学生を納得させる深い理由なくなされているのが実状であると思われる。
特に、受講生の多いコア科目に相当する個別科目はコア科目に振り返られてしまい、個別科目として開講されない可能性があり、担当学部・専門教官集団・大学教育委員会の特段の配慮を期待する。(KN)

センターの活動

◎学内評価委員会へ質問状:本速報No.7で指摘した学内評価規定の問題点について8月30日質問状を発送。
◎全大教教研集会(9/14-16)へレポート「我々の目指す大学像: 文科省『大学構造改革計画』による大学破壊に対抗して」を、東職改革問題特別委員会ならびに独法化反対宮崎大学実行委員会と共同して提出。内容はいずれも本センターHPに掲載。詳細次号

HPと郵便口座を開設しました
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/
郵便口座:10580-62783261 



 目次に戻る

東職ホームページに戻る