独行法反対首都圏ネットワーク

文部科学省調査検討会議『中間報告(案)』分析メモ Ver. 1

2001年8月22日
独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 本メモは、文科省『中間報告(案)』(8月9日)を正確に理解するためのものである。急ぎ作成したため誤りがあるかも知れないが、全国的な議論の素材になれば幸いである。誤りや認識違い、あるいは別個の見解があれば、he-forum等で御指摘いただきたい。
 ○は『中間報告(案)』の主要な部分の抜粋あるいは要約、#は分析あるいはコメントである。なお、本メモは『中間報告(案)』の項目に従って作成されている。そのため、本メモをお読みいただければ、文科省の方針とそれに対する批判の論点の双方を理解することができよう。ただし、『中間報告(案)』には大変重複が多いので、そういう場合は省略している箇所もある。

 0. はじめに
○国立大学に民間的発想の経営方法を導入する→新しい「国立大学法人」に早期に移行

#『中間報告(案)』は「独行法+民間的経営方法」という構造。独行法=企画と実施の分離、企画部門における国家意思の貫徹。遠山プランを国家意思として大学に貫徹する方法として「独行法+民間的経営方法」が提起されている。

#民間的発想の経営方法の導入は、アプリオリに会社組織の方が効率的という考えによっている。
 I.基本的な考え方

1.検討の前提

前提1:「大学改革の推進」

○大学改革の一環としての法人化の検討
○法人化を契機に民間的発想の経営手法を大胆に導入
○国公私立を通じた我が国の大学全体の活性化と教育研究の高度化
○第三者評価に基づく重点投資のシステムの導入など競争原理の導入や効率的運営

#「独行法+民間経営手法」という構造。前述、「はじめに」と同様。

前提2:「国立大学の使命」

○タックスペイヤーたる国民や社会の意見が大学の運営に適切に反映。運営の実態や教育研究の実績に関する高度の透明性が確保、厳しく検証。国民に支えられ最終的に国が責任を負うべき大学にふさわしい法人像。

#学問の自由は、憲法23条で明文的に規定された国民の基本的権利であり、既に高度に公共的概念である。学問の自由を実現する重要な柱である大学の自治を、「国民」と「国」を使い分けつつ、「最終的に国が責任を負うべき大学」ということで廃棄するのが狙いなのではないか。

前提3:「自主性・自律性」

○法人化は、国立大学の多様化に途を拓くべきもの。公私立大学等との使命や機能の分担にも十分留意しつつ、法人化を契機に各国立大学の特色や個性を伸ばす観点から、独自の工夫や方針を活かした柔軟な制度設計ができるだけ可能となるよう特に留意

#「大学の自治」の語をいっさい用いない代わりに、多用される「自主性・自律性」は、“多様化”と“柔軟な制度設計”強要へのイントロダクションである。

2.検討の視点

視点1:世界水準の教育研究の展開を目指した個性豊かな大学へ

○ 国立大学=「国を代表する大学」 「世界水準の教育研究」。

#基本的には対外競争力の獲得手段として、国立大学を位置づける。

○各国立大学は、・・・置かれている状況や条件を踏まえ、大学独自の理念や目標、個性をより明確にし、大学としての存立の意義を明らかにしていくことが求められる.

#要するに“現存する格差を前提にして「多様化」せよ”ということ

視点2:国民や社会へのアカウンタビリティの重視と競争原理の導入

○大学運営に高い見識を持つ学外の専門家や有識者の積極的な参画により、国民や社会の幅広い意見を個々の大学の運営に適切に反映させる

#「幅広い意見の反映」というが、経営に学外の専門家や有識者を積極的に参画させることが狙いではないか。なお、「有識者」という語が『中間報告(案)』では多用されているが、「学識経験者」よりもさらにあいまいな言葉である。

○学生、産業界、地域社会などのデマンド・サイドからの発想を、常に重視する姿勢も重要。
○国立大学における教育研究の世界に、第三者評価に基づく競争原理を導入。評価結果に基づく重点的な資源配分の徹底を図る。

#大学審議会主導で進められてきた各種評価についての原理的検討は無い。ひたすら資源配分を目的とする第三者評価。

視点3:経営責任の明確化による機動的・戦略的な大学運営の実現

○学部等の枠を越えて学内の資源配分を戦略的に見直し、機動的に決定、実行しうるよう、経営面での学内体制を抜本的に強化。全学的な視点に立ったトップダウンによる意思決定の仕組みを確立。

#基本的手法として、学長によるトップダウン体制。資源配分の見直しによって部局の生殺与奪権を学長が握る。

○各学部においても、全学的な運営方針を踏まえつつ、学部長を中心とした意思決定の仕組みを導入すべきである。

#「全学的な運営方針を踏まえ」させるために、学部長権限を強化する。

○学長など大学運営の責任者に学内外から適任者を得るための方法を確立。

#この項、後述の「学長選考関連条項」参照。
 II.組織業務

1.検討の視点

視点1:学長・学部長を中心とするダイナミックで機動的な運営体制の確立

○学長は、経営・教学双方の最終責任者。強いリーダーシップと経営手腕を発揮

#学長の経営能力を特に重視。

○事務組織は、教員と連携協力して企画立案に参画し、学長以下の役員を直接支える専門職能集団としての機能を発揮

#事務組織問題は後述。

○教授会の審議事項を精選、学部長を中心にダイナミックで機動的な学部運営を実現

#教授会審議事項の縮小・制限

○学内での教育、研究、運営等の適切な役割分担

#研究、教育組織の分離、運営集団の形成が企図されている

視点2:学外者の積極的な参画による社会に開かれた運営システムの実現

○法人役員に広く学外からも有識者や専門家を積極的に登用/役員以外の運営組織にも学外の有識者や専門家が参加(とりわけ経営面)/その他大学運営のスタッフに学外の幅広い分野から専門家を積極的に登用

#学外者の全面的参画

視点3:各大学の個性や工夫が活かせる柔軟な組織編成と多彩な活動の展開

○柔軟かつ機動的に教育研究組織を編成し、得意分野等にスタッフを重点的に投入

#長期的な見地からの教育研究組織編成が困難になる危険性あり。

○教職員の構成も、教員、事務職員等の画一的な区分を越えて各大学の実情に即した多様な職種を自由に設定

#固有の職域と職群の確立がなされないまま、「多様な職種」を導入するならば“使い捨て”の未権利教職員が作られ、安定した職務の執行にかえってマイナスとなる。

○大学が獲得した外部資金を活用して、必要な研究従事者を弾力的に採用・配置

#雇用条件の異なる多数の不安定研究従事者の出現は、協働・協力を基礎とする大学の教育研究を一層困難にさせる。

○必要に応じTLO等関係法人へ出資
○教育研究組織等の一部を国立大学法人本体からさらに独立させ、特性に応じたより弾力的な運営を可能とする仕組みを創設(『中間報告(案)』で新たに追加)

#大学業務の一部を、第3セクター化、さらには民営化させる

2.制度設計の方針

(1) 法人の基本

#名称は「国立大学法人法」。全体評価としては、独立行政法人通則法の内容は完全に貫徹されている

#大学機能の分割と他法人への移行、最終的には民営化も可能=(施設への出資)の項参照

(2) 運営組織

(法人組織と大学組織)

○役員=学長、副学長(複数)、監事(2名)
○学長=強いリーダーシップと経営手腕。最終的な意思決定。

#現行規定では学長は最終執行責任者。執行権限と意思決定権限を分離し、権限の分立をはかるのが民主主義の基本。この点で、『中間報告(案)』は民主主義的原則に明瞭に背反している。

○監事=1)経営面中心に監査。学長又は文部科学大臣に意見提出。2)少なくとも1名は学外者。

#通則法そのままである。この監事の任務と権限は極めて重大。文部科学大臣への直接具申権(通則法19条)。しかも、この監事の任命権は学長にはなく、文部科学大臣にある(通則法20条2に相当)。 人事制度2(2)の(他の役員、部局長の選考方法等)を参照。

○役員、役員以外のスタッフ=学外の有識者、専門家の登用

#経営部門は基本的に学外者によって運営されると見るべきだろう。

(役員以外の運営組織)

A,B,Cの3案

(事務組織)

○教員組織と連携協力しつつ大学運営の企画立案に積極的に参画し、学長以下の役員を直接支える大学運営の専門職能集団としての機能を発揮することが可能となるよう、組織編成、職員採用・養成方法等を見直す

#事務局を専門職能集団で構成。企画立案等を実質指揮・執行。「連携協力しつつ」と書かれていても教員組織の意思は、産総研の例を見れば明瞭なように、“無視される”と考えておいた方がよい。従来の支援業務要員は、パートタイマー等“柔軟な”雇用制度によって確保、という状況が想定されていると見るべきだろう。

(学部等の運営)

○教授会=審議事項を真に教育研究に関する重要事項に精選

#教授会権限の縮小。「中期目標・中期計画のイメージ例」にあるように。権限縮小のために「精選」が数値目標化される。

○学部等の運営の責任者たる学部長等の権限や補佐体制(副学部長等の設置など)を大幅に強化/全学的な運営方針を踏まえながら学部長等の権限と責任においてダイナミックで機動的な運営を実現

#学部長権限の強化。ただし、「全学的な運営方針を踏まえながら」という制限に注目。部局自治の制限とみるべき。

(3) その他の組織

(教育研究組織)

○学科以下の組織は法令に規定せず、各大学の予算の範囲内で随時に設置改廃を行う

#長期にわたって維持継続せねばならない分野をその時々の判断や予算状況で各大学ごとに容易に廃止できる。現在は、大学設置基準・国立学校設置法施行規則(省令)で規定。

○学部・研究科・附置研究所については、・・・各大学ごとに法令(具体的には省令)で規定。

#これも文科省の判断で可能となる。現在は、国立学校設置法施行令(政令)で規定。

○国としての政策的判断や相当の予算措置を要するような大規模な教育研究組織の設置等=あらかじめ中期計画に記載し、文部科学大臣の認可。

#基本的な枠組は文科省の指揮下。

(職員配置・構成)

○各学部等への職員数の配分を自主的に決定

#「自主的に決定」とは、学部職員数の配分は学長トップダウン体制で可能、と解すべき。部局権限の縮小と対応。

(4) 目的・業務

(目的)

○各大学ごとに固有の目的規定を定めるのではなく、各大学の個性や特色の発揮を阻害しないよう十分留意しつつ、法人化後の国立大学に共通する一般的な目的を整理し、これを法律に定める。

#「多様化」「個性化」は、中期目標の策定(策定権=文科相)を通じて行う。「中期目標・中期計画のイメージ例」参照。

(業務)

○各大学ごとの業務の基本的な内容や範囲を明確にする観点から、各大学の学部・研究科等を下位の法令で規定

#上記(3)(教育研究組織)と対応。学部・研究科等の業務規定を通じて大学の「多様化」「個性化」を実行する。

○目的と業務を一体的に規定することもありうる

#これは重大な文言である。目的が業務を規定するのが本筋であるのに、“初めに多様化された業務があり、これを意味付けるために目的を書く”という倒錯した論理にもなりうる。

(業務の範囲)(他の法人への出資)

#大学業務の分割、切り捨て、民営化等を可能にする措置

(学生収容定員)

○あらかじめ中期計画に記載し、国の認可を得る。

#定員管理は文科省が握る。

(業務方法書)

#「業務方法書」とは通則法28条で規定されているもので、一般には、業務開始に際して法人が具体的な業務の方法の要領を等の基本ルールを記載する書類である(独立行政法人研究会編『独立行政法人制度の概説』第一法規)。これは、独立行政法人評価委員会(『中間報告(案)』では大学評価委員会)の意見を聞いた上で文科相が許可することになっている。通則法の構造からは、中期目標(29条)を規定するものであり、極めて重大と考えるべきである。さすがにこの「業務方法書」の妥当性を主張するのをためらったためか、『中間報告(案)』では適用、不適用は未決定。
 III.目標評価

1.検討の視点

視点1:明確な理念・目標の設定による各大学の個性の伸張

○各大学ごとに国の政策目標を踏まえ教育研究の基本理念・長期計画を盛り込んだ長期目標を自主的に策定・公表

#「国の政策目標」:大学の理念・目標を「国の政策目標」に従属させるものであり、学問の自由に抵触するといわねばならない。「国の政策目標」の明示は、通則法にもない。

○各大学の教育研究の特色・地域性等を踏まえ基本的な理念・目標や重点的に取り組むべき事項などを中期目標に掲げることにより、各大学の個性を明確化

#「中期目標は文科相が策定する」(各大学は、案の提示のみ=通則法29条の貫徹)、“個性化”は中期目標策定によって遂行されよう(「イメージ例」参照)

視点2:第三者評価による教育研究の質の向上と競争的環境の醸成

○大学の教育研究活動について、厳正で客観的に評価する第三者評価システムを導入
○国際的水準の活動に従事した経験を有する幅広い分野の有識者から構成する国立大学評価委員会(仮称)が総合的に評価

#通則法12条にいう主務省の「独立行政法人評価委員会」に相当。なお、この独立行政法人評価委員会の評価は、「国家意思の決定・表示に該当」(独立行政法人研究会編『独立行政法人制度の概説』第一法規)であることを考えれば、この評価が「国の政策目標」を基準にすることは避けられないだろう。

○教育研究に関する事項は大学評価・学位授与機構による専門的な評価の結果を活用

#総務省の評価委員会、文科省の国立大学評価委員会(仮称)、大学評価・学位授与機構、に加えて各大学の外部評価をいれれば、4つの評価主体が存在することになる。教育研究については主として大学評価・学位授与機構に委ね、国立大学評価委員会は運営全体に対して総合的な評価。

○評価結果を各大学における教育研究等の改善、次期以降の中期目標・中期計画の内容や運営費交付金等の算定に反映

視点3:目標、評価結果等の情報公開によるアカウンタビリティの確保

○各大学に対する国立大学評価委員会(仮称)等による第三者評価の結果を積極的に公表

2.制度設計の方針

(1)国の政策目標と大学の長期目標

(国の政策目標)

○国は、・・・我が国の高等教育・学術研究において国や国立大学が果たすべき役割や責務等に係る政策目標あるいは高等教育・学術研究に係るグランドデザインを策定。

(大学の長期目標)

○各国立大学は、国が策定する政策目標等を踏まえ、当該大学の教育研究の基本理念及びこれを実現するための長期的な計画を盛り込んだ長期目標を自主的に策定し、公表。

# 「国が策定する政策目標等を踏まえ・・・」:上述の通り極めて危険。学問の自由に反する。

(2)中期目標・中期計画等

(中期目標・中期計画の作成手続き)

○中期目標については、・・・あらかじめ各大学が文部科学大臣に中期目標(案)を提案し、文部科学大臣は、これを十分に尊重しつつ、また、国の政策目標や各大学の定める長期目標との整合性に留意して、中期目標を策定する方向で検討する。

#大学は提案権のみ。「整合性」を根拠に国の政策目標への従属が要求される。

○各大学は、この中期目標に基づいて中期計画を作成し、文部科学大臣が認可。

#中期計画も認可制。

○中期目標についても、各大学が作成し、文部科学大臣が認可するなどとすべき、との一部の意見もある。

#この意見でも結局、認可制。

○国、国立大学協会等は、中期目標・中期計画の形式及び内容について、大学の長期目標に沿った複数の参考例を提示することが望ましい。

#添付された「中期目標・中期計画イメージ例」のようにして、国が各大学を誘導することを宣言している(姑息な手法)。「国大協もそれを手伝え」と言われているのだ(因みに、『中間報告(案)』で国大協という語があるのはここだけ!)。

(中期目標・中期計画の内容)

○中期目標は、・・・国の政策目標に関わる事項や大学として重点的に取り組む事項を中心に記載。

#ここでも中期目標が国の政策目標に従属することが謳われている。

○中期目標は、・・・各大学ごとの教育研究の特色、地域性その他の特性を踏まえ、一層の個性化を促進するよう工夫する。

#「個性化」という名の「多様化」。なお、「イメージ例参照」

(3)評価

(評価の主体)

○国立大学評価委員会(仮称)は、社会・経済・文化等の幅広い分野の有識者を含め、大学の教育研究や運営に関し高い識見を有する者から構成することとし、その構成員の選任に当たっては、各分野において国際的水準の活動に従事した経験を有すること等を基本的な要件とする。

#問題点は上述のとおり。なお、通則法によれば、独立行政法人評価委員会の組織、所掌事務、委員、職員など必要な事項は政令で定めることになっている(12条3項)。文科省の場合は、文部科学省独立行政法人評価委員会令
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/dokuritu/gaiyou/010201b.htm)である。国立大学評価委員会(仮称)については全く不透明。

(評価結果の活用)

○評価結果は、次期以降の中期目標期間における運営費交付金等の算定に反映。競争的環境の醸成及び各大学の個性ある発展を促進する観点から、教育研究その他の業績に対する評価の結果を適切に反映した算定が行われなければならない。

#評価の目的は、端的に言って、運営費交付金等の算定にある。評価の基準が最終的には、国の政策目標であるとなると、時々の国家政策目標に直接依存した運営費交付金配分が行われるだろう。
 IV.人事制度

1. 検討の視点

視点1:教員の多彩な活動と潜在的能力の発揮を可能とする人事システムの弾力化

○採用・昇任等は教特法の精神を踏まえつつ、具体的なプロセスは各大学独自の方針や工夫が活かせるよう制度を弾力化

#教特法の内容の維持は個別大学の方針次第。

○ワークシェアリングなど多様な勤務形態を導入するとともに、一定の要件の下での裁量労働制の導入を検討

#ワークシェアリングについては後述。

○公務員型・非公務員型にかかわらず教職員の多様な活動を可能とするより柔軟な人事制度を構築

#要するに、多様な雇用形態、多様な勤務形態。

視点2:成果・業績に対する厳正な評価システムの導入とインセンティヴの付与

○教職員の成果・業績に対する厳正な評価システムを各大学に導入
○インセンティヴ・システムを給与制度等に導入

#個人評価と給与への反映。ここでは「教特法の精神・・・」の言及なし。教特法では、「勤務成績の評定及び評定の結果に応じた措置は、大学管理機関が行う」(12条)と明記。

○学長が不適任の場合に学内における審査を経て主務大臣が学長を解任できる仕組みを導入

#ここでは「教特法の精神・・・」の言及なし。教特法では、「大学管理機関の申し出に基づいて、任命権者が行う」(12条)と明記。教特法では発議者が大学管理機関であることに注意。

○事務局職員等の採用・昇任等は、幹部職員も含めて学長の下に一元的に管理

#民間的経営手法でもこんなファッショ体制は一般的ではないのではないか。

視点3:国際競争に対応しうる教員の多様性・流動性の拡大と適任者の幅広い登用

○任期制・公募制を積極的に推進
○世界的な研究者等を短期間招聘するための年俸制の導入など多様な給与体系へ移行

#退職金を含めて他教職員の人件費への影響をどうするのか?

○競争的資金の間接経費を活用した任期付教職員の採用制度を導入

#極めて不安定な雇用形態の公然たる導入。

○経営面の責任が加わる学長に適任者を得るため学長選考の過程に社会(学外者)の意見を反映させる仕組みを導入

#経営能力審査を理由とする学外者の介入

2.制度設計の方針

(1)身分

○教職員の身分:職員の身分は公務員型としつつ一般公務員に比してより柔軟な人事制度の実現を図るべきという意見と、採用その他におけるさらに柔軟な人事制度を実現するために非公務員型とすべきという意見がある。

○公務員型、非公務員型については、アプリオリに選択するのではなく、個別の制度設計を積み上げた最終結果として考えることが適当。

#公務員型を原則とする、と言う以前の見地から、両論併記へ。

(2)選考・任免等

(大学における人事の自主性・自律性)

○教員等の任免、分限、服務等に関しては、教育公務員特例法の精神、考え方を、新しい大学の運営体制の下で適切に取り入れた基準、手続により行う。
○法人化後は、教員等の人事に関する基準・手続きは、法律で規定される事項を除き、大学内部の規則として定められることになる。
○法人化を契機に、各国立大学の特色や個性を一層伸ばすために、人事面においても大学独自の工夫や方針を生かした柔軟な制度設計ができるだけ可能となるよう留意すべきである。

#法としての教育公務員特例法ではなく、「適切に取り入れた基準、手続」=個別大学ごとの「内部の規則」へ(政令でも省令でもない。つまり法令でないということだ)。大学ごとに教員の任免、分限、服務等の基準が違う!

○個々の教員の有する潜在的な能力を発揮させるインセンティブ・システムを各大学において設けることが可能となるよう、所要の制度上の工夫を行う。

#要するに「勤務評定」をやって、賃金を決める!

(学長の選考方法等)

○国立大学の学長:「知の代表者」であるとともに、優れた経営者。経営・教学双方の最終責任者として、強いリーダーシップと経営手腕を発揮することが強く求められる。/法人化後は、学長の資質如何が大学の命運を大きく左右する。/学長には、教育及び研究の分野に精通していると同時に、法人運営の責任者としての高い経営能力を有している者が選任される必要がある。

#「学外から経営者としての学長を送り込む」というのが本音なのではないか。特に、再編統合が強力に進められた場合、“統合前の個別大学関係者ではバランスがとれない”という論理によって学外からの新学長という論理が台頭しよう。

○学長は、学内の選考機関における選考を経た後に、文部科学大臣が任命する手続とすべき。/選考は、新しい運営体制の下で、上記の観点に立った選考を行うのに最も適当な機関が行う。/法人化に伴い学長に大学の経営面での責任が加わるなど、その社会的責務が増大すること等に鑑み、各大学における学長の選考基準、選考手続の策定に際して、学内及び社会(学外)の意見を反映させることを検討すべき。/学外の意見を反映させる方法としては、新しい運営体制の下で設置される外部の有識者が参画した学内の審議機関等の意見を積極的に活用することが考えられる。

#法人化後の学長選出方法を現段階では議論せず、法人化後に「新しい運営体制の下で設置される外部の有識者が参画した学内の審議機関等の意見を積極的に活用」して決めよう、と言うわけだ。学長という管理運営機構上極めて重要な機関をどうするかについては、「棚上げ」したまま、独法化しようという卑劣極まりない方針。

○具体の選考過程において投票を行う場合であっても、例えば、選考機関の下に学外の有識者を含む推薦委員会を設置し、広く学内外から候補者を調査し、候補者を絞った上で投票を行う等の方式を導入することや、投票参加者の範囲も大学・法人運営の最高責任者を選ぶ上で適切なものとすることが必要である。

#要するに、複数候補者のなかから適任者を学内教員の直接投票によって決定するという一般的な現行選出プロセスを認めない、ということだ。

○現行制度上、学長の任期は、再任の可否、再任を認める場合の任期を含め、教育公務員特例法により各大学が個別に定めている。法人化後の学長の任期については、・・・大きな裁量を与えられて法人運営を委ねられる法人の長としての役割を兼ねることを考慮し、また、中期計画の期間が原則として6年の期間で一律に設定されることとの関連にも留意すべきである。

#中期計画にすべて従属した大学運営。

○法人の長としての学長が不適任とされる場合には、一定の要件のもとで文部科学大臣が、学長の選考を行った機関の審査等の手続を経て解任することができることが必要である。

#教特法では学長への処分は大学管理機関(評議会)が審議し、発議することになっている。上記の文面は、文部科学大臣を主語にすることによって、文部科学大臣に発議権が存在していることを表明している。教特法の精神は無視されている。

(他の役員、部局長の選考方法等)

○役員は、学長を補佐し、その業務の一部を分担するものであることから、学長が自らの責任において任命する。任命に当たっては、役員の職務の性質等を踏まえた基準及び手続により行われるべきである。また、役員の任命基準、手続について、教員から任命される役員と、それ以外の役員を区別すべきか否かについて検討が必要である。

#「教員以外からの役員」とは学外者を指すのだろうか。その手続きを区別するということの意味は、大学内の自主的な判断を制限しようとすることではないか?あるいは、「教員以外の役員」が学内外の事務職員を指すのか、不分明である。

○監事は、大学の業務の適切な執行を担保するという職務の性質上、文部科学大臣が任命、解任する。

#通則法20条2項の通りである。前述の通り、生殺与奪権を握られることになる。

○学部長等の部局長は、監事以外の役員や職員と同様に学長が任免することとする。任免に当たっては、大学全体の運営方針を踏まえつつ、ダイナミックで機動的な学部運営が問われる法人化後の部局長の職務の性質等を踏まえた基準及び手続により行われるべきである。

#部局教授会からの部局長選出という現状を、学長任命に変える狙いが明白。さらに、部局長に「大学全体の運営方針を踏まえ」ることを要求することによって部局自治をないがしろにすることになろう。

(教員の任免等)

○教員選考に際しては、専門性を有する学部等の考えが尊重されるとともに、大学全体の人事方針が適切に反映されることが重要であり、新しい大学の運営体制の下で、大学・学部等の運営の責任者たる学長及び部局長がより大きな役割を果たす方向で検討すべきである。
○選考委員会に学内外の関連分野の教員の参加を求めたり、学外の専門家による評価
○推薦を求め、参考にするなどの方法により、外部の意見を聴取し、より総合的な判断を可能とする仕組みを設けることが必要である。

#教員選考という自治の根幹に関わる部分に、「学長及び部局長がより大きな役割を果たす」ようにさせ、「学内外の関連分野の教員の参加を求めたり、学外の専門家による評価・推薦を求め」ることにより、結果的に外部圧力が増大し、人事の公平性・透明性に障害を生じさせる危険がある。

(教員以外の職員人事の在り方)

#この項目については、検討に値する側面をも含んでいないわけではないが、実際には、以下の文面に表れている通り、各大学の事務局は引き続き「本省人事」として取り扱おうとしているとみるべきである。

○事務職員等の任命権は各大学に属することが原則であるが、資質の向上、事務局組織の活性化のため、大学の方針に基づく人事交流は有益である。現在、事務職員の一部が大学間、及び文部科学省と大学の間を流動的に異動している現実や法人化後に大学内に当該事務職員の配置を固定したときの処遇の問題等を考慮すると、当分の間、事務職員の人事の流動性を確保することが必要であり、適切な人事交流を促進する仕組みを設ける必要がある。

(3)給与

○教職員の成果・業績を反映したインセンティブを付与する給与の部分が適切に織り込まれたものとすることが必要である。このため、各大学において職務の性質及び個人の成果・業績を評価するための制度を設ける。

#これは勤務評定とその結果の賃金反映制度の導入である。一方で教特法の精神云々といいながら、この問題では教特法について語らないのは恣意的である。教特法では大学管理機関(評議会)のみがこの問題を取り扱うことができ、しかもその評議会が例えば1968年東大評議会決定のように「勤勉手当の差別支給は行わない」というようにインセンティブを付与する給与の部分を作らないできたのである。そのことによってどのような不都合があったのかを文科省は提示すべきである。

#その他、任期制の導入が教員の流動性に寄与しないばかりか、ますます若手研究者の処遇を不安定にさせ、研究者志望数の増加にブレーキをかけているという現実をどうみるのか。

(4)服務・勤務時間

(勤務時間管理)

○多様な勤務形態(例えば週3日勤務制などのワークシェアリング)を認めることが可能となるようにすべきである。

#要するに1人分の給与で2人の教員を雇用しようとする。これで学生に対して全的教育ができるのか?

○教員に関しては、・・・例えば、一定の要件の下での裁量労働制の導入を可能にできるようにすべきである。

#裁量労働制においては、勤務時間管理の柔軟化が本質的目的ではなく、成果管理の徹底が目的である。任期制、ワークシェアリング等の不安定な雇用形態に加えて裁量労働制の導入・拡大は、教員を果てしなきラットレースにたたき込む。

(5)人員管理

(中長期的な計画に基づく人員管理)

○中長期的な人事計画の策定と組織別の教員及び職員の配置等(人件費管理を含む)についての調整を行なうための仕組を設ける。新しい運営組織の下で、経営面からのも十分な検討が行われ調整をはかる必要。

#2つの重大な問題がある。第1に、人事計画の策定は結局のところ人件費に規定されることである。それは、中期計画で管理的経費縮減の数値目標として規定される(「イメージ例」参照。なお、先行独立行政法人の現実をみよ。)第2に、「新しい運営組織の下で、経営面からのも十分な検討」ということは、この人事計画は学外者として経営に乗り込んできた役員に握られるということである。
 V.財務会計制度

1.検討の視点

視点1:教育研究等の第三者評価の結果等に基づく資源配分

#既に問題点は前述

視点2:各大学独自の方針・工夫が活かせる財務システムの弾力化

○運営費交付金は国の予算で使途を特定せず各大学の判断で弾力的に執行(年度間の繰越しも可能)

#現行制度でも特別会計の枠内では弾力的に運営されている

○一定の学生納付金については国が示す一定の範囲内で各大学の方針・工夫により具体的な額を設定

#個別大学、個別学部毎に授業料値上げを可能とする

○各大学の自己努力よる剰余金はあらかじめ中期計画で認められた使途に充当

#「中期計画」の縛り

○施設整備は国が措置する施設費のほか長期借入金や土地の処分収入その他の自己収入による整備も実施

#「長期借入金」などが可能なのは特定の大学のみ。施設整備における国の責任の軽減。

○寄附金などの自己収入は原則として運営費交付金とは別に経理にしてインセンティヴを付与

#大学間格差は確実に増大

視点3:財務面における説明責任の遂行と社会的信頼性の確保

○大学の特性を踏まえた会計基準の検討

#「独立行政法人会計基準」の問題点の指摘もなく、かつまた具体的提起もなし

2.制度設計の方針

(1)中期計画と予算

(2)運営費交付金

(運営費交付金の算出方法)

○運営費交付金=標準運営費交付金+特定運営費交付金

#運営費交付金の算定については極めて不明確である。特定運営費交付金は「客観的な指標によることが困難な特定の事業等に対する所要額」と定義しながら、それを「第三者評価機関による評価結果等を適切に反映させるもの」とするとしている。どうして、「客観的な指標によることが困難な」ものにもかかわらず、「算定に用いる第三者評価の項目については、適切なもの」を選ぶことができるのか。結局のところ、この特定運営費交付金の性格は、教育研究活動の本質からかけ離れた“客観的数値”のみが独り歩きした結果となるか、さもなければ、「国の政策目標」への忠誠度に対する報償金となるしかないであろう。

(3)施設整備費

(長期借入等を行うシステムの構築)

○長期借入金及び不用財産処分収入の調達等を行うためのシステム(以下「システム」という。)を構築する(共同機関の設置等)。

(施設整備の仕組み)

○システムは、概ね次のような業務を行う。長期借入金の一括借入れ及び償還/文部科学省の配分方針に基づく長期借入金及び不用財産処分収入の各大学への配分 など

#このシステムが特別会計制度の代わり

(5)長期借入金債務

○現在国立学校特別会計が有している長期借入金債務については、システムに承継させ、同システムが附属病院を有する大学からの拠出金をとりまとめて償還するか、又は、附属病院を有する大学に承継させ、システムが償還金をとりまとめて償還することとする。

#国の医療政策として長期借入金による附属病院の拡充を行なってきた経過を無視して、付属病院とそれを有する大学へ債務を一方的に負わせるのは、明らかに不当である。大学病院の社会的責任も果たせないばかりか、利潤追求機関への転換を迫るものとなろう。
 VI.大学共同利用機関

視点1:学術研究をさらに発展させる観点からの制度設計

○我が国の学術研究が高い国際的競争力をもちうるよう、学術研究をさらに発展させる積極的観点から、大学及び他の研究機関(独立行政法人・特殊法人等)との関係を含め、制度を検討する必要がある。

視点2:大学や研究者コミュニティに開かれた運営システムの維持

○法人化に当たっても、現在大学共同利用機関が有する大学や研究者コミュニティに開かれた運営体制を維持していく必要がある。

(法人の単位)

○大学共同利用機関は、個々の機関によって設置目的が異なることから、各大学共同利用機関ごとに法人格を付与することを原則とする方向で検討する。

#とりまとめの過程では、「全大学共同利用機関の運営を単一の法人で行う」という文章が突然挿入されたと言う。産総研方式を適用する意図であろう。しかし、これは大学共同利用機関の厳しい批判の結果、撤回されたと言われる。

(人事制度)

○法人の長である機関の長は、全員機関外の者からなる評議員会が推薦した者について、文部科学大臣が選考、任命する手続とする。

#現行制度では、運営協議会の意見を聴いて評議員会が推薦することになっている。文科省案では、各機関内の意見はまったく反映しないことになってしまう。

 中期目標・中期計画のイメージ例
#イメージ例という形式ではあるが、文科省の意図がもっともよく表現されている、とみるべきである。また、中期計画の相当部分が数値目標となっている。
主な注目点を列挙する。

1.「2.大学の教育研究等の質の向上に関する目標」
【中期目標】(0)大学全体としての理念・目標

#7つの例を示しているが、実はこれが文科省が企図する大学の種別化=「多様化」「個性化」である。中期目標は文科相が策定する訳であるから、中期目標を通じて大学の種別化を進めようとしていることがよくわかる。

2.「3.業務運営の改善及び効率化に関する目標」
【中期目標】(1)運営体制の改善に関する目標

#「中間報告」(案)の内容が盛り込まれている

【中期計画】(1)運営体制の改善に関する措置

#数値目標化されている
#運営体制を構成する部門として、法務、財務、労務が例示されている

3.「4.財務内容の改善に関する措置」
【中期計画】

#自己収入増、管理的経費縮減の数値目標が要求されている。なお、本年4月先行発足した独立行政法人では、法人側の意向は悉く無視され、「自己収入増1%/年、管理的経費縮減1%/年、都合5年間で10%の経費節約」の数値目標が強要されたことは周知の事実である。

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