独行法反対首都圏ネットワーク


『中間報告(案)』の描く大学組織Ver.1
2001.8.30 独行法反対首都圏ネット事務局

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               『中間報告(案)』の描く大学組織Ver.1

                                                                                                     2001年8月30日

                                                                           独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 
  本事務局は、8月22日に、文科省『中間報告(案)』(8月9日)を正確に理解するため、文部科学省調査検討会議『中間報告(案)』分析メモ Ver. 1を発表した。本メモはその続編として、『中間報告(案)』が描く大学組織はどのようなものかを検討したものである。この検討作業は、『大学構造改革計画』(遠山プラン)が国立大学独法化(国立大学法人化)の前提として強行しようとしているトップ30体制への統合・再編の実態や本質を解明することも意図している。
  以下の分析はなお不十分な水準であるかもしれないが、全国的な議論の素材とするため、あえて途中経過を公表する。誤りや認識違い、あるいは異なった見解があれば、he-forum等でご指摘いただきたい。

1.国家による大学支配が貫徹される。
(1)「国の政策目標」→「大学の長期目標」→「業務方法書」(文科相認可)→「中期目標」(文科相策定)→「中期計画」(文科相認可、相当部分が数値目標)というサイクル。
(2)四重の評価システム(総務省政策評価・独立行政法人評価委員会*、文科省大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学の評価組織)と連動する運営費交付金の配分、組織の改廃。
注)*:『中間報告(案)』が基本的にすべて通則法に基づいて構想されていることに留意すれば、総務省におかれる「政府全体の政策評価と独立行政法人評価のかなめ」としての「政策評価・独立行政法人評価委員会」(平成12年政令第270号)が、文科省大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学の評価組織の上にのしかかることは必至であろう(http://www.soumu.go.jp/kansatu/seisaku-hyoukaiinkai.htm  参照)。

2.学外者という名の官僚群による大学経営部門の乗っ取りが行われ、それによって形成される肥大化した官僚組織が大学を支配する。
(1)「民間的発想の経営手法」を標榜し「学外者=民間人」を装ってはいるが、実際には、文科省と他省庁からの「天下り」官僚群が、役員および役員以外のスタッフの大半を占拠し、経営部門の実権を掌握することになろう(産総研の実例を見よ!)。
(2)「大学運営の専門職能集団」としての事務組織は、官僚に乗っ取られた大学事務局の実行部隊となる。“当分の間”、この専門職能集団は、本省人事として全国を異動する。専門職能集団の下に、“柔軟な雇用制度”による非正規職員、派遣労働者等が配置されよう。
(3)『大学構造改革計画』(遠山プラン)による統合が進めば進むほど、官僚組織は強大になる。なぜなら、分権的で現場に権限のある自治組織にはこのような組織は不要であるが、合理性のない“タコ足”統合によって出現する巨大大学は、肥大化した管理組織によってしか動かすことはできないからである。それは、スケール・デメリットによる非能率・非効率の蔓延をもたらすであろう。

3.文科省に生殺与奪権を握られた学長による専制体制が構築される。
(1)学長は、文科相に任命された監事と、罷免発議権を持つ文科相に、生殺与奪権を握られる。
(2)学長は学内においては専制体制をとることが可能となる。個別教員選考人事にさえ、助言という名の介入を行うことができる。部局構成員による部局長選考も、学長選考同様困難になる。かくしてチェック・アンド・バランス機能を有する現行運営システム(執行責任者としての学長と、最高決定機関としての評議会)は最終的に崩壊し、硬直したトップダウン体制が成立する。

4.基礎組織としての部局、学科の基盤は極めて不安定になり、間断なき再編が進行する。附属諸施設の大学から分離、民営化、廃止等が容易に行われる。
(1)自治の基礎単位としての部局(学部等)という位置付けは廃止され、設置の法令上の根拠も、省令に格下げされる。部局教授会の権限は極めて限定される。部局固有の職員数も学長の権限で容易に変更できる。
(2)学科については、予算をにらみながら学長専決体制下の各大学で随時改廃が可能となる。
(3)附置研をはじめ様々な付属施設を大学から分離できる。
(4)上記の措置によって、教育研究組織の改廃、分離が容易に可能となる。

5.教職員の共同・協力態勢は破壊され、管理された競争=ラットレースが進行する。

(1)各人に対する勤務評定が実行され、人事考査による賃金決定がなされる。教職員間の賃金格差は拡大する。財政基盤の強弱に対応して、大学間の賃金格差も発生する。
(2)教育公務員特例法は機能を停止させられ、廃止される。教育公務員特例法の「精神」は各大学の諸手続きのなかに引き継ぐとあるが、法令上の根拠を失い、身分的不安定さは増大する。
(3)教員は部局から切り離され全学教員組織に編入された上で、研究組織、教育組織、運営組織に“派遣”されることになろう。
(4)教育研究の現場における支援業務は、「柔軟な人事制度」に基づく極めて不安定な雇用形態の非正規職員と派遣労働者等によって担われる。彼ら・彼女らは低賃金のままに据え置かれよう。
(5)経営方針に従属した定員管理が徹底される。学外者役員等の存在は不可避的に人件費(退職金を含む)を増大させるが、一方で管理的経費の削減を中期計画に盛り込むことが強制される。このため、教育研究現場の定員削減はいっそう厳しく追求されよう。
(6)任期制、「ワークシェアリング」、裁量労働制の導入と拡大、多様な雇用形態は、時空の共有と固有の職域の尊重によって成立する共同・協力態勢を著しく困難にする。分断化された教職員は、管理された競争=ラットレースを強いられる。上記4は、これら(1)〜(6)を通じて推進される。

6.四重の評価への対処が通常業務を占拠し、評価のための教育研究という倒錯した事態が蔓延する。
(1)総務省政策評価・独立行政法人評価委員会、国立大学評価委員会、大学評価・学位授与機構、各大学評価委員会という四重の評価機関が、予算配分と改廃勧告の権限と直結して、教育研究の現場を事実上支配することになろう。評価基準を“客観的”するために、本質とは無縁な「数値目標」が自己目的化する。

(2)間断ない評価の繰り返しによって通常業務は著しく阻害されるばかりでなく、遂には評価のための教育研究という倒錯が起ることは避けられないであろう。

7.総予算の縮減下で、予算の重点配分が強行される。
(1)先行独立行政法人の中期計画に例外なく強要された「自己収入増大+管理的経費削減」(5年間で10%)が、確実に適用される。
(2)標準運営費交付金は圧迫され、評価に基づく配分(特定運営費交付金)が支配的となる。
(3)大学間、学部間で授業料(学生納付金)の格差が発生する。
(4)付属病院における利潤追求への傾斜は避けられない。
(5)「民間的発想の経営手法」を謳ってはいるが、評価に基づいて配分される運営費交付金に依存する以上、自律的経営は事実上不可能である。経営能力とは、結局のところ、中期目標における人件費削減とその他の数値目標達成の「能力」に矮小化されよう。

8.大学の種別化が一挙に進行する。
(1)「国の政策目標」に整合的な「長期目標」と、文科相策定による「中期目標」によって大学は7つの種類に区分される(イメージ例参照)。
(2)この種別化は、現存する大学間格差を前提に進められる。
(3)さらに「遠山プラン」は独法化以前に再編統合を進め、トップ30体制を入口で形成しようとしている。大学間の格差は決定的に拡大し、しかも「中期目標」によって固定される。

9.かくして固定的で流動性のない沈滞した大学群が出現する。
(1)裾野なきトップ30体制で、トップ30自身も沈滞・瓦解の危険に陥る。大学種別化の固定と格差の拡大は、大学間における人的・学問的交流を確実に阻害する。流動性は現在の大学システムよりも質的に低下することは避けられない。
(2)トップ30以外の「その他」大学は著しい財政的困難に陥る。第1期の中期目標期間後は、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会からの廃止勧告もありえよう。大学から分離された諸施設は最終的には民営化か廃止。「自由な競争」は欺瞞にすぎない。
(3)任期制の導入は、とりわけ若手研究者の養成を著しく困難にする。後継者養成に失敗するならば、大学は沈滞し、最終的には存続が不可能となる。
(4)大学間の生存競争が、大学間の共同・協力態勢にとってかわる。システムとしての大学は崩壊する。
(5)各大学には巨大官僚組織が出現。文科省と他省庁の官僚群の「天下り」先となる。
(6)教職員は、四重の評価システムのなかで“管理されたラットレース”。
(7)上意下達の学長トップダウン体制による硬直した運営が蔓延。しかもその学長の生殺与奪権を文科省が握る。


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