大阪市大と府大を/統合した場合の影響は『読売新聞』2011年11月6日付

『読売新聞』2011年11月6日付

大阪市大と府大を/統合した場合の影響は

上山信一 慶応大教授  強み持ち寄り研究加速

 市大と府大はこれまで優秀な人材を数多く輩出してきた。だが、これからの世界的な大学淘汰(とうた)の流れに照らすと、いずれも規模が小さすぎるので生き残り策が必要だ。くしくも今後の大阪の都市戦略にとっては高等教育や学術研究は重点投資分野であり、両大学は経営統合した上で効率化と同時に機能強化すべきだ。

 両大学は現在、市役所、府庁からそれぞれ補助金をもらう独立行政法人が経営している。そして、市と府が公立大学に支出する資金の合計額は年間約250億円に上る。この額は東京都が首都大学東京に出す約170億円をはるかに超える。両者の経営は統合して学部を再編し、潜在能力の高い分野を重点的に育成すべきだ。例えば市大は医学部を、府大は農学部を持つ。強みを持ち寄ればバイオや医薬の研究が加速できるだろう。東京都も傘下の四つの都立の大学を統合したが、同様の都市経営上の危機感に基づくものだ。

 なお、法人は一つに統合しても、キャンパスは複数あってよい。米・カリフォルニア州立大でも、バークレーやロサンゼルスなど複数のキャンパスがある。

 優秀な学生や教員を集めるブランド戦略も大切だ。東京は首都大学東京という新たな名称をつけたが、大阪はどうか。阪急・阪神百貨店のように経営は統合しても、市大、府大の名前を残すという作戦もあるかもしれない。

森 裕之 立命館大教授  知の蓄積失われる恐れ

 市大で大学、大学院と学んだが、最大の特色は都市研究にある。開設時に当時の関一市長が唱えた「大学は都市とともにあり、都市は大学とともにある」「国立大学の“コッピー”であってはならぬ」という理念は、市大特有の実学に根ざした学風をつくりだした。日本初の「市政科」が設置され、その後も都市政策の研究・教育の中心を担ってきた。

 一方、府大は市大にない農学部や航空宇宙工学の学科を備え、双方で補完し合ってきた。重複する学部もあるが、それぞれが独自性をもっている。定員割れもしていない。

 二つの大学を統合しなければいけない理由がない。統合することで、学問の内容をどう充実できるというのか。新大学の理念を、はっきりと示すことが不可欠だ。

 東京では都立4大学を首都大学東京に統合した際に、人文、法、理など7学部を都市教養や都市環境など4学部に再編した。学問には体系があり、それを学生に学ばせることが大学の重要なミッションだが、新しい名前の学部にすると、体系が不明瞭になる。都はトップダウンで再編を推し進め、反発した教員が大学を離れる事態に発展した。

 市大、府大も統合されると、学科再編が必至だろう。今まで両大学がそれぞれ築き上げてきた知の蓄積が、失われる事態になりかねない。

 ◆大阪市大と府大の比較 市大は1880年に創立された大阪商業講習所が起源で、1928年に大阪商科大、49年に市立大になった。8学部10研究科があり、公立大で最大規模の総合大学。府大は1883年に設置された獣医学講習所が起源。1949年に「浪速(なにわ)大学」となり、55年に府大に改称された。2005年、大阪女子大と府立看護大が統合された。

 現在、全国の公立大学は81校。東京都は2005年、都立4大学を首都大学東京に統合。京都府には府立大、府立医科大、京都市立芸術大の3校、兵庫県には県立大と神戸市外国語大、神戸市看護大の3校がある。

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◇進むべき将来像の浮上期待<連載を終えて>

 大阪版連載「聞く!大阪のカタチ」では10回にわたって、大阪維新の会政策特別顧問の上山信一・慶応大教授と、大阪都構想に反対する森裕之・立命館大教授に質問に答えてもらった。質問は、大阪市大と府大の前で、府内に住む20歳以上の学生各50人ずつに聞いた、大阪の自治体の形に関するアンケートをもとにした。これからの大阪を支える学生たちの抱く疑問を解くことが、大阪の将来につながると考えたからだ。

 連載の1~5回目では、都構想が打ち出された理由や、雇用や自治体財政、暮らしなどに及ぼす影響について聞いた。6回目では、区長を選挙で決める区長公選制、7回目では府県を統合する関西州の必要性を質問した。8回目は市営地下鉄、9回目は水道、最終回は大学について語ってもらった。

 上山教授は「大阪の衰退を食い止めるには、改革の一歩を踏み出さなければならない。このままでは『座して死を待つ』ことになる」と、都構想の実現や地下鉄、水道の民営化の必要性などを説いた。

 一方、森教授は「都に権限や財源を集中させても地域経済は活性化されない。地域内の産業を育てる地道な努力が不可欠」とし、行政区変更による周辺部の衰退や民営化による質の低下などのリスクを指摘した。

 両教授の考え方は対照的だったが、大阪を取り巻く状況が厳しいという認識では一致していた。

 読者の皆さんからも手紙やメールなどで意見を頂いた。「思い切った改革断行を」という声もあれば、「大阪は京都や奈良などと文化都市を形成すべき」との提案もあった。私自身、少子高齢化が進むとともに、東京一極集中が止まらない中、大阪をどのような街にしていくことが自分や子供たち、さらにその後の世代にとって幸せなのか、悩んでいる。

 10日に知事選、13日には大阪市長選が告示され、いずれも27日に投開票が行われる。両選挙とも、大阪の自治体の形が最大の争点になりそうだ。候補者たちの議論が深まり、進むべき大阪の将来像が浮かび上がることを期待している。(南省至)

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