『宮崎日日新聞』社説2011年10月12日付
司法修習給費制
■廃止なら法曹の将来歪める■
司法試験に合格後、司法修習生としての研修期間に国庫から「給与」を支払う給費制を継続するか。それとも返済義務のある貸与制に切り替えるか。「法曹の養成に関するフォーラム」などで議論されてきた問題が「打ち切り」という結論に傾こうとしている。だが、それでいいのだろうか。
司法修習生になるまでの大学、予備校、法科大学院の学費などで多い人は1千万円の借金を抱えているという。この上、給費制が廃止されれば、「お金がなくて法曹の道を断念する若者が増える」と県弁護士会は指摘する。
■終戦後すぐに誕生■
給費制は首都東京など空襲による焼け跡が残り、がれきの山だった終戦後間もなく誕生した。制度誕生の背景には、社会正義の実現と人権を守るという法曹の使命には公益性があり、これを「国が養成するのは当然」という時代の空気があった。
東日本大震災で東北地方が大打撃を受け、立ち直りの道筋がいまだに見えていない。復旧・復興に一円でも多く振り向けるため給費制を見直そうという動きがあるのは仕方のないことかもしれない。しかし、制度誕生の背景や理念を考えると、ここでひざを屈して、撤廃してしまうのは残念だ。
法科大学院修了者の司法試験合格者が当初の目標を大きく下回り、それが同大学院への入学希望者減と質低下、さらに司法修習修了後の「考査」不合格者増を招くという悪循環に陥っている。給費制廃止によって悪循環がさらに加速しないか、そんな危惧の念をぬぐえない。
■親にも相当な負担が■
本県の場合、県外の大学、法科大学院に進学するだけでも親、本人に相当な負担がかかる。それに加えて、司法修習生時代の生活費などがのしかかるとなると進路決定の段階あるいは途中で法曹を志すことをあきらめる若者が増えるのではないか。
県弁護士会所属の弁護士数は101人(10月6日現在)。総数は10年間でほぼ倍増した。このうち過去5年の新規登録者は42人で、会員全体の4割を占める。新司法試験の導入によってかつて500人程度だった合格者が2千人程度になった増員効果や、弁護士会の努力もあって弁護士過疎地域はなくなりつつある。歓迎すべき傾向だが、給費制が廃止になり弁護士を目指す若者が減れば、いつか増加が減少に転じ、過疎地域が復活してしまう懸念がある。
弁護士はだれでも「お金にならない仕事」を抱えているといわれる。しかし、弁護士になった時点で多額の借金を抱えているようだと社会正義より、お金になる仕事を優先させることにならないか。つまり社会的弱者にしわ寄せがいく。
司法の改革はまだ道半ばである。将来の全体像さえ決まっておらず、給費制の廃止はその全体像を歪(ゆが)める恐れがある。結論を急がず議論を継続した方がいい。