日本版NIH 医療の競争力強化の司令塔に  『読売新聞』社説 2014年1月26日付

『読売新聞』社説 2014年1月26日付社説

日本版NIH 医療の競争力強化の司令塔に

優れた医学研究を医薬品開発や治療法に結実させる必要がある。日本の競争力強化へ、“医療の司令塔”が果たすべき役割は大きい。

政府は、医療分野の研究開発を支援するため、独立行政法人「日本医療研究開発機構」を創設することを決めた。各省庁でばらばらだった研究支援体制を一元化する狙いがある。

世界の医学研究や創薬をリードする米国の国立衛生研究所(NIH)をモデルに、「日本版NIH」と呼ばれる。政府は関連法案を通常国会に提出し、新法人を2015年4月に発足させる方針だ。

医療分野は成長戦略の柱として期待される。成長の牽引(けんいん)力となるよう、看板倒れに終わらせず、実効性のある組織とすることが肝要である。

新法人は、各省庁の研究開発予算を一括管理し、大学などの研究機関に配分する役割を担う。有望な分野を優先し、基礎研究から製品化までを継続的に支援する。

山中伸弥・京都大教授が作製したiPS細胞(人工多能性幹細胞)に代表されるように、日本の医学の基礎研究レベルは高い。

ところが、医薬品・医療機器の貿易で約3兆円の輸入超過となるなど、医療技術の実用化では米欧に後れをとっている。

基礎研究と臨床応用の間に溝があり、大学などの研究成果が、企業による製品化に結びついていなかったのは問題と言える。

研究開発に対する政府の支援は、基礎分野を文部科学省、臨床研究は厚生労働省、産業化は経済産業省がそれぞれ担当し、時にちぐはぐだ。類似研究に各省が予算を奪い合うケースも多い。

新法人を十分機能させるためには、まず省庁の縦割りをなくし、効率化を図ることが不可欠だ。

新法人の職員は、医療や薬学の民間の専門家などで構成される予定だ。人材確保が難題である。

将来性の高い研究領域を見極め、製品開発に向けて研究機関と企業をどう結びつけるか。「目利き力」が求められよう。

産官学で取り組むべき課題は山積している。日本版NIHの創設はスタートに過ぎない。

基礎研究を偏重しがちな大学の研究者の意識改革を進めるとともに、失敗のリスクが大きい革新的な技術開発を手がけるベンチャー企業の育成も急ぐべきだ。

政府は、日本版NIHを大きく育てて、オールジャパンで医療分野の国際競争力を高める体制を築いてもらいたい。

 

 

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