大学入試改革:教育界から提言『毎日新聞』 2013年10月14日付

『毎日新聞』 2013年10月14日付

大学入試改革:教育界から提言

大学入試の改革が佳境を迎えている。本紙連載「さまよう入試」(9月30日10月4日朝刊社会面)では現状と課題に迫った。本欄では大学、高校、塾の立場から、大学入試改革について意見を聞いた。【三木陽介、水戸健一】

◇入試、3レベルに分けよ;国語専門の大学受験塾経営・中井浩一さん

「全入時代」を迎えた今、全大学が個別の入試をする必要はない。入試をしながら事実上受験生全員を入れている大学もある。「外注」もそうだが「装い」の入試にコストをかけるのは社会全体の無駄だ。

高度成長期は受験競争が激しかったため、各大学が客観的で公平な選抜方法として学力を基本にした入試をする意味はあった。だが大学も増え、進学する学生のレベルも多様化している。いかに円滑に高校から大学へ移行させるかが大切で、現実に合わせた入試改革を考えた方がいい。

入学制度は米国のように「開放入学」「資格選抜」「競争選抜」の3種類に分けるべきだろう。「開放」は18歳か高校卒業者ならだれでも入れる。「資格選抜」は基礎学力を測る統一テストなどで、各大学の設定基準をクリアすれば全員が入学できる。国が導入を検討している「到達度テスト」をこの目的で使うなら賛成だ。「競争選抜」は一部の難関大だけが大学独自の試験を実施して選抜する。

入試では公平性が原則とされるが、大学に入学しやすくして、入った学生の能力に合った教育が受けられるようにするのが本当の平等だ。大学在学中でも能力がアップすれば上のレベルの大学へ、逆に能力が落ちれば下の大学へ移るような仕組みも必要だろう。大学は「出口」を厳しくして教育を充実させる方向に注力すべきだ。

社会的階層が、入試で入った大学のレベルで確定されてしまう社会ではなく、人生ずっと競争が保証されるようなシステムや考えに変えていくべきだ。

◇教科書外からも出題を;東京理科大教授・渡辺正さん

大学入試は本来、大学教育につながるような力を試すものだが、大学に入ると、高校で勉強したことや入試で覚えたことを一度リセットして頭を再起動しているのが実態だ。

問題点は教科書にある。入試問題は教科書の範囲を逸脱してはいけないというルールがあるが、教科書の中には大学に入ってからほとんど使わない用語や記述が昔のまま澱(おり)のように残っている。例えば、私が専門の化学でいうと電子式。元素記号の周りに電子の数を点で打って表す式だが、その用語は大学でまず使わない。このほかにも「マイナスのイオンがプラス極に引かれていく」という電気分解の説明も15年前に誤りを指摘してようやく教科書から消えた。

科学の世界は日々進化しているのに、教科書の中身は依然変わらないまま高校で教えられ、それが入試に出ているのが現状だ。

教科書の範囲をはみ出してはいけないのは、入試に「公平公正さ」が求められるからだと言われているが、現状のように入試で勉強したことを大学でいったんリセットしなければいけないのは非常にもったいない。入試では、教科書に載っていないような物質を素材に、その反応を考えさせるような問題を出すべきだ。

現行の入試も無駄だとは言わない。我慢してたくさんの用語などを覚えることも大切だ。しかし、公平公正さからはイノベーションや新しい産業は生まれない。1000人の受験生がいれば必ず数十人は磨けば光る人材がいる。入試でそういう人材を見つけ、大学で伸ばしていくことが求められる。

◇大学は丁寧な選抜必要;元全国高校長協会会長・秀明大学頭、甲田充彦さん

日本の高校進学率は98%だ。勉強のできる高校生もいれば、できない子もいる。さらに「勉強をしない子」もいるのが現実だ。政府の教育再生実行会議が大学入試センター試験に代わる段階別の共通テストと、学習到達度を測る新テストの導入を検討するとされているが、この新しい二つの試験ですべての高校生の学習意欲をかき立てることができるのかというと、疑問が残る。

「大学全入時代」になったとはいえ、大学・短期大への進学率は6割弱だ。大学や短大に進学するつもりがない「勉強をしない子」は、新たな二つの試験ができたことで、勉強するようになるだろうか。

彼らは高校卒業後、就職したいと考えているが、企業の求める能力がなく苦労する。新しい到達度テストが学力だけでなく、思考力、判断力も測るのならば、スコアを大学入試の合否判定だけでなく、企業などが採用時の判断材料として活用できるはずだ。そのような仕組みになれば、勉強は嫌いだが学校が好きな生徒が勉強する動機付けになる。

筆記試験を経ずに入学した新入生の学力の低さを嘆く大学関係者がいるが、入学させた責任は大学にある。私が学頭を務める秀明大はすべての学部の受験生に面接を課している。学力は十分なのに、面接で落ちる受験生もいる。新しい試験ができることで、アドミッションオフィス(AO)入試や推薦入試も変わるだろうが、育てたい学生を選抜するという大学の心構えは変わらないはず。より丁寧な選抜をすることが大学に求められることになるだろう。

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■人物略歴
◇なかい・こういち
1954年生まれ。「鶏鳴学園」(東京都)代表。著書に「大学入試の戦後史」(中公新書ラクレ)など。

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■人物略歴
◇わたなべ・ただし
1948年生まれ。科学教育が専門。東京大名誉教授。高校生の国際科学五輪にも深く関わる。

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■人物略歴
◇こうだ・みちひこ

1946年生まれ。東京教育大(現筑波大)卒。都立高で教員、校長。2009年度から現職。

 

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