大学入試改革の素案“新テスト 複数回受験も” NHKニュース配信記事2013年10月11日付

NHKニュース配信記事2013年10月11日付

大学入試改革の素案“新テスト 複数回受験も”

政府の教育再生実行会議は11日の会合で、今の大学入試センター試験に代えて、1点刻みで順位をつけるのではなく、成績を段階別におおまかに示す新たなテストを導入し、複数回受験できるようにすることも検討するなどとした改革の素案を示しました。

11日夜、総理大臣官邸で開かれた政府の教育再生実行会議には、安倍総理大臣や下村文部科学大臣らが出席しました。

冒頭、安倍総理大臣は大学の入試改革について、「能力や意欲を多面的・総合的に評価し、判定する方向に転換していく必要がある。子どもたちや保護者に与える影響も大きく、これからの日本を見据えた思い切った改革と丁寧な実施に向けて提言をまとめてほしい」と述べました。

これを受けて会合では、改革の素案が示されました。

素案では、知識偏重の選抜にならないよう、現在の大学入試センター試験に代えて、新たなテストを導入するとしています。

新たなテストは、センター試験のように、1点刻みで順位をつけるのではなく、成績を段階別におおまかに示すとしており、複数回受験できるようにすることも検討するとしています。

また、センター試験では6教科・29科目にわたって行われている出題の科目数を絞り込むことや、英語検定試験の「TOEFL」など外部の検定試験を活用できるようにすることも検討するとしています。

そのうえで各大学には、新たなテストを活用して学力水準の到達度を判定するとともに、面接や論文、高校の推薦書や生徒が取り組んできた活動を評価するなど、多様な方法で選抜を行うよう求めています。

一方、これとは別に、高校での基礎的な学習の到達度を把握するため、高校在学中に希望する生徒が複数回受験できるテストを創設することも盛り込まれています。

このテストは、生徒の指導に生かすのが目的で、高校の単位や卒業の認定などの条件とはしないものの、大学の推薦入試やAO入試では、基礎学力の判定に活用できるようにするとしています。

2つのテストの具体的な実施方法や体制、制度や財政面の整備などは、今後、中教審=中央教育審議会で検討するとしています。

実際の導入は、今の高校生に影響を与えないよう、一定の周知期間を置くため、5年前後かかるものと見られます。

教育再生実行会議は、素案をもとに、早ければ今月末にも提言をとりまとめ、安倍総理大臣に提出することにしています。

 

4割が推薦かAO入試 背景に危機感

現在の大学入試センター試験は、国公立大学を対象にした共通一次試験に代わって、平成2年に始まりました。

少ない科目数でも受験できるようにしたことから、私立大学も参加するようになり、ことし1月のセンター試験は、およそ54万人が受験しました。

しかし、多くの大学が1点刻みで合否を判定するため、知識偏重の選抜を助長しているという指摘が出ています。

また、受験できるのは年1回だけで、たった一度のチャンスで、合否を決める仕組みは改めるべきだという意見もあります。

一方で、10年ほど前から、高校の推薦書や面接などで合否を決める推薦入試やAO入試が広がって大学入学者のおよそ4割を占めるまでになり、中には、事実上学力を問わないものもあるとして、大学生の基礎学力や高校生の学習意欲の低下につながっているという指摘も出ています。

政府の教育再生実行会議は、「知識偏重の選抜や事実上学力を問わない選抜によって、本来伸びるはずの若者の能力を損ねることがあってはならない」として、大学入試を能力や意欲、適性を多面的・総合的に評価したり判定したりする仕組みに転換するため、改革の必要性を強調しています。

 

合否の基準が見えづらく

新たなテストの導入にあたって、課題になるのが実施方法や体制です。

入試改革の素案では、複数回受験できるようにすることも検討するとしており、膨大な量の試験問題を誰が作成するのかや会場、試験を監督する要員をどう確保するのかなどは、今後の議論となります。

また各大学に、面接や論文など多様な方法で選抜を行うよう求めていますが、丁寧な判定を行おうとすれば、それだけ多くの労力がかかることになり、負担が増えるとして、実施に消極的な大学が出てくることも予想されます。

改革が進むかどうかは大学側の対応によります。

一方、受験生にとっては、1点刻みの選抜ではなくなる分、どのような基準で自分の合否が決められるのか見えづらくなるという指摘があり、これまでの議論でも各大学が学生に求めるものを分かりやすく示す必要があるという意見が出されました。

今後、中教審で、テストの実施時期や受験可能な回数などが具体的に話し合われることになりますが、受験生に不安を与えないよう、丁寧に説明しながら検討を進めていくことが求められます。

 

専門家「多角的評価ができるかが課題」

今回示された入試改革の素案について大学入試に詳しい「リクルート進学総研」の小林浩所長は「これまでの大学入試センター試験は、1点刻みで結果を見る知識偏重型だったので素案の方向性はいいと思う。ただ、面接や論文で合否を決めるAO入試も当初は学生の多様な能力を見ようと始まったが、学力を問わない学生集めの手段となってしまっている面もあるので、多角的な評価につなげられるかが課題だ」と指摘しています。

そのうえで「大学がいかに学生を教育して世の中に送り出すかが最も大事で、入学でなく卒業の段階を重視するように意識を変えるところまでつなげていくべきだ。そのためにも、日本にある800の大学が個性を明らかにして求める人材を高校や社会に発信していけるかが大きなポイントになる」と話しています。

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