やがて悲しき博士号 4割が就職難、採用枠増えず 文科省調査 『朝日新聞』 朝刊2013年08月08日付

『朝日新聞』 朝刊2013年08月08日付

やがて悲しき博士号 4割が就職難、採用枠増えず 文科省調査

この春に博士課程を修了した大学院生のうち、非正規雇用の身分で働くなど安定した職に就いていない人が40・1%(前年比1・6ポイント増)に上った。文部科学省が7日に発表した学校基本調査(速報値)でわかった。高学歴の博士たちが、就職難に苦しんでいる。

博士課程を終えた大学院生1万6440人のうち、就職者は5月1日時点で1万829人。就職率は65・9%(同1・4ポイント減)で、3年ぶりに下がった。

進路のうち、雇用期間が限られる「非正規雇用」、勤務時間の短い「一時的な仕事」、「進学も就職もしていない」の3項目は「安定した職に就いていない 人」と位置づけられ、計6599人で全体の4割を超えた。学部卒の20・7%(同2・2ポイント減)、修士課程修了者の17・3%(同0・4ポイント減) に比べ、突出している。

博士課程に進む学生は、20年間で2・5倍に膨らんだ。国が1991年度から「研究や産業技術の高度化に伴い、企業や研究機関で需要が急増する」とみ て、「10年間で2倍程度」を目標に大学院生を増やす政策をとったことが背景にある。しかし、主な就職先である大学の採用枠はそれに見合うほど増えなかっ た。民間企業も採用に消極的とされる。

そのため、「ポストドクター(ポスドク)」と呼ばれる任期付きの身分で研究を続ける人も増えた。今回の調査でも、非正規雇用の40%がポスドクだった。(岡雄一郎)

■3校で講義、月収9万円 31歳のポスドク、年金も支払えず

首都圏の大学3校で講義を受け持つ女性(31)は昨春、東京の私立大で経営学の博士号を取ったポストドクター。肩書は「兼任講師」だが、名刺の裏に入れた英訳は「パートタイム・レクチャラー」だ。

正規の教員ではないため正式な身分証はなく、研究室も教職員用のメールアドレスも与えられず、大学の図書館ですら申請しないと使えない。国民年金は支払 い猶予を申請し、健康保険証は父の会社のものだ。その父もあと2年で定年。クレジットカードを作るにも年収を見て不審がられる。

今は1コマ5千~6千円の講義が週4コマ。月収9万円でボーナスはなく、都内の実家で暮らす。契約はどの大学も1年間。その後はどうなるかわからない。

企業の正社員にあたる任期なしの教員や、3~5年の任期付きの助教職に空きを見つけては履歴書を送る。昨春から10校に応募したが、8校は研究実績の書類選考で漏れ、面接にたどりつけたのは任期付き助教職の2校。いずれも不採用だった。

博士として研究業績を上げるには論文を書き続け、学会誌に掲載される必要があるが、文献収集も学会への報告で海外へ行くにも、研究費はすべて自腹だ。

「後戻りできない道を自分で選んだんだとわかっていても、『大学を出て就職していれば……』って考えてしまうんです」

■研究職を得ても、契約は1年ごと

理化学研究所(埼玉県和光市)の工学博士の女性研究員(35)は2011年、約10倍の難関を突破して今の職を得た。年収は約700万円。自分で調達し なければならない研究費も、15年春までの3年半で科学技術振興機構から計4千万円の助成金を得られることになった。だが、理研との契約は1年ごとで、更 新される保証はない。「今は恵まれている。でも、終身ポストが得られるまで安心できない」

同じ研究室の仲間も、職探しではライバルだ。「重要な情報は教えないし、長い期間休む同僚がいると、その間に差をつけることができると思ってしまう」と打ち明けた。

ポスドクを経験した芥川賞作家の円城塔さん(40)。7年で三つの国立大を転々とした。任期切れのたびに職探しを強いられる生活に疲れ、34歳で知人を 頼って民間企業に就職。だが、博士号を持つ社員の人脈も生かして仕事をする欧米と異なり、「日本企業は、博士は専門化しすぎて役に立たないと、敬遠する傾 向が根強い」という。

 

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