経済苦 忍ぶ大学院生 国の支援策これから『中日新聞』2013年1月31日付

『中日新聞』2013年1月31日付

経済苦 忍ぶ大学院生 国の支援策これから

 高い学費の工面や奨学金の返済など、経済的な不安を抱える大学院生が増えている。国はこれまで、大学などの高等教育の段階的無償化を求めた国際人権規約の条項を、30年以上留保してきたが、昨年秋に撤回。ただ、学費の減額や返還不要な給付制奨学金制度の創設など、無償化に向けた具体的な施策はこれからだ。 (福沢英里)

 愛知県内に住む大学院の博士課程に在籍する女性(26)は、八百万円を超える奨学金の返済額にため息をついた。受験を控えた中学三年のころ、父親は病気で入退院を繰り返していた。教師になりたかったので、奨学金を借りて高校、国立大へ進学。研究者の道も視野に大学院に進み、その間の学費や生活費の大半を奨学金に頼ってきた。

 学部生の時はほぼ毎日していたアルバイトも、大学院へ進んでからは研究時間を確保するため、週二回に減らした。博士課程の一年目に結婚。就職や返済の見通し、子どもは持てるのかを考えると、将来への不安が常にあった。実家の家族も支えねばならず、大学をやめて地元で公務員試験を受けようと考えていたところ、専門学校の常勤教員の職が見つかった。

 大学を休学して働き始めてまもなく、妊娠が分かり、昨年末に出産。教員の夫も奨学金の返済があるため、二カ月の子どもを保育所に預け、二月にも仕事に復帰する。「仮に月五万円弱の返済でも十年以上はかかる。実家へ仕送りもしたい」と女性。いつ復学できるかは分からない。

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 全国大学院生協議会(全院協、東京)が昨年実施した「大学院生の経済実態に関するアンケート」によると、回答した七百五十五人の七割以上がアルバイトをしており、その目的として93%が「生活費あるいは学費を賄うため」と回答した。さらに半数の大学院生が、生活費や研究費の工面に不安を抱えていることも分かった=グラフ。

 背景には日本の大学の学費が、国際的に見ても高いことがある。経済協力開発機構(OECD)加盟国の半数は大学の学費が無料なのに対し、日本の高等教育に対する教育費支出の対国内総生産(GDP)比は、加盟国の中で最低の0・5%にすぎない。

 そのしわ寄せは家庭にも及ぶ。日本政策金融公庫が昨年十一月に発表した調査でも、高校入学から大学卒業までの費用は、一人あたり千三十一万円と、五年連続で高水準。世帯年収に占める教育費の割合は平均39%と、過去十年で最高になった。

 奨学金返済に困窮する学生を支援する法律家らの全国組織が、三月にも発足する一方、根本的な問題解決のため、全院協は毎年、授業料の減額、授業料免除枠の拡大、給付制奨学金の創設の三点を柱に、文部科学省や日本学生支援機構などに訴えてきた。

 二〇一二年度予算の概算要求に一度は盛り込まれた給付制奨学金も、一三年度予算では見送り。国は一二年度から始めた、奨学金を受けた本人が卒業後、年収三百万円を得るまで返済を猶予する新しい奨学金制度(院生は対象外)をさらに進めることや、「授業料免除枠の拡大に努力する」との回答にとどまっている。

 東京都内の国立大に通う博士課程の女子学生(26)は昨年、月二十万円が支給される日本学術振興会特別研究員に選ばれ、学費と生活費を工面する苦労からひとまず解放された。しかし、特別研究員の採用枠は博士課程の学生全体の一割に満たない。女子学生は「選考が厳しく応募をためらう学生や、制度を知らない学生も多い」と院生の厳しい現状を嘆く。

 全院協議長の奥村美紗子さんは「安心して研究生活に専念できるよう、今後も返還の必要のない給付制奨学金の創設を粘り強く訴えていきたい」と話している。

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