科学技術イノベーション政策の推進体制の抜本的強化を求める 2013年1月22日 一般社団法人 日本経済団体連合会

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科学技術イノベーション政策の推進体制の抜本的強化を求める

2013年1月22日
一般社団法人 日本経済団体連合会 

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科学技術イノベーション政策の推進体制の抜本的強化を求める【概要】

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わが国は現在、震災からの復興・再生や、デフレ経済の長期化、少子化・高齢化、資源・環境・エネルギー問題等、様々な課題に直面している。また、新興国の著しい経済成長を背景とするグローバル競争の激化に伴い、国際競争力は低下を続けている。 

こうしたなか、産業競争力を強化し、持続的な経済成長を実現するためには、科学技術イノベーション政策を国の成長戦略の柱に据え、政治のリーダーシップのもとで力強く推進することが不可欠である。既に、欧米やアジア各国においては、イノベーション創出に向けた取組みを国家の成長戦略の柱と位置付け強力に推進しており、わが国が遅れを取ることは許されない。 

他方、わが国の現状は、政府の第4期科学技術基本計画(2011年8月閣議決定)において、科学技術の振興を主目的とする従来の政策から、課題解決型の科学技術イノベーション政策へと大きく方針が転換されたものの、具体的な取組みは十分に進んでいない。今後は、総合科学技術会議の司令塔機能を強化した上で、日本経済再生本部等との連動性も確保しつつ、イノベーション創出を国家の重要戦略として推進することが急がれる。 

そこでわが国の科学技術イノベーション政策の推進体制の抜本的強化に向け、「強力な司令塔の実現」、「ファンディングの仕組みの改革」、「大学・大学院の改革」、「科学技術予算及び研究開発促進税制の拡充」の4本柱からなる改革の早期実現を強く求める。 

1.強力な司令塔の実現

科学技術イノベーション政策を国家の重要戦略として強力に推進するためには、府省横断で政策を推進しうる強力な司令塔が不可欠である。そのためには、総合科学技術会議の法的権限や体制等を強化するための様々な改革が必要である。 

(1)総合科学技術会議の権限の強化
総合科学技術会議に付与されている権限は「基本的な政策の調査審議」にとどまっている。強力な司令塔としてイノベーション創出を牽引するためには、自らが政策を企画立案及び推進する機能を持たせることが重要であり、現在、文部科学省が有している「基本的な政策の企画・立案及び推進」、「基本計画の作成及び推進」の権限を、総合科学技術会議に移管すべきである。

各省の予算に強い影響力を発揮できることも司令塔として不可欠な要素である。科学技術イノベーション政策に関する「骨太の方針」を毎年策定し、同方針に沿って各省に概算要求の作成を求めるとともに、重複や漏れが生じることのないよう総合調整を行う権限を付与すべきである。併せて、各省の施策の進捗・効果など執行状況を評価した結果を各省の予算に反映させるための権限も必要である。

また、総合科学技術会議の方針に沿った政策が着実に推進されるよう、各省(傘下の研究開発法人やファンディング機関も含む)に対して勧告できる権限を科学技術担当大臣に加え総合科学技術会議自体にも新たに付与すべきである。 

(2)「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」の後継プログラムの創設 
イノベーション創出に資する最先端の研究開発を重点的に支援する仕組みとして、「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)#1」の後継プログラムを創設することが重要である。その際、総合科学技術会議が自らの裁量で支援プログラムを決定できるものとすべきである。対象は、現在のFIRSTの中で厳格な評価を経て継続すべきと判断されるものと、新規に公募され支援すべきと判断されるものの双方が含まれることが適切である。また、支援プログラムの評価及び新規採択にあたっては、産業界関係者をできる限り多く委員に加えることが重要である。 

(3)関連政策の一体的推進
科学技術イノベーション政策の対象は、従来の科学技術政策で対象としていた政策の枠にとどまらない。今後は、規制改革や高等教育政策、知的財産政策、国際標準化戦略等の関連政策にまで総合科学技術会議の検討範囲を拡大し、関係本部・会議との強力な連携のもと、総合科学技術会議の主導により一体的に推進することが重要である。

併せて、今次発足した日本経済再生本部や産業競争力会議との連動性を確保し、科学技術イノベーション政策を国家の重要戦略として強力に推進すべきである。 

(4)総合科学技術会議の体制強化
イノベーションまでを視野に入れた政策を企画立案推進するためには、総合科学技術会議の有識者議員の定数を拡充し、増加分については産業界出身者を多く充当しその比率を高めることが必要である。

また、事務局機能の強化も不可欠である。特に、イノベーションの主たる担い手である企業の知見を政策により強く反映できるよう、企業出身者の積極的な受入れや幹部への登用の拡大を図る必要がある。併せて、事務局である内閣府への各省からの出向者が2年程度で交代している現状を改め、科学技術イノベーション政策に精通したプロパー職員を育成することも必須である。

さらに、総合科学技術会議自身が実効性のある政策を企画立案するため、科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST/CRDS)のような既存の政府系シンクタンクを総合科学技術会議の直属の組織とし、総合科学技術会議の調査分析機能を強化することにも取組むべきである。

 

2.ファンディングの仕組みの改革

関係各省は、自らの省に係わる科学技術予算を配分するための組織(ファンディング機関)を有しているが、ファンディングは各省ごとの方針に沿って実施されており、イノベーション創出に向けた連携が十分に取れているとは言い難い。課題解決に資するイノベーションの創出力を向上させるためには、基礎研究から実用化・事業化までを産学官で一体的に推進できるよう、現行のファンディングの仕組みを見直すことが不可欠である。 

(1)ファンディング機関間の連携強化
総合科学技術会議の主導により、日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)といったファンディング機関同士の連携を強化し、基礎研究から実用化・事業化までを一貫して推進する体制を構築する必要がある。

併せて、より効率的・効果的なファンディングの実現の観点から、ファンディング機関の統合の検討も必要である。その際、同一所管官庁下の機関同士の統合に限定せず、省庁の枠を越えた統合も検討すべきである。 

(2)産学共同研究への重点配分 
科学技術関係予算において重要な位置を占める競争的資金#2についても、イノベーション創出の観点から制度全体を体系的に見直すことが必要である。

具体的には、基礎研究のみならず、実用化・事業化に向けた研究開発への支援を強化するとともに、イノベーション創出の主たる担い手は企業であるとの認識のもと、産業界が中心となった産学共同研究への支援を拡充すべきである。その際、各プロジェクトのリーダーに企業出身者を任命することにより、企業経営の視点を活かしたマネジメントが行われる体制を整備することも重要である。

 

3.大学・大学院の改革

諸外国に比べわが国の大学・大学院は、イノベーション創出により社会の多様な要請に応えるという視点に乏しいのが現状である。

こうした状況を改善するため、大学・大学院に対する評価体制の整備や、評価結果に基づく予算の重点配分等を通じ、大学・大学院自らが改革を起こそうとするインセンティブが働く仕組みを構築することが重要である。 

(1)評価体制の整備及び予算の重点配分
わが国の大学・大学院の改革にあたっては、政府による評価体制の充実が大前提となる。研究開発と教育を峻別し、双方に関する適切な評価指標を整備するとともに、中立的機関によって客観性かつ透明性を持った評価が行われる体制を構築すべきである。併せて、大学・大学院におけるガバナンスの強化に向けた取組みを評価する仕組みを整備することも重要である。その際、評価委員には、企業経験のある者を多く任命することが肝要である。

その上で、評価結果に基づき、運営費交付金を傾斜配分し、大学・大学院間の競争や機能分化を促進することが不可欠である。 

(2)大学・大学院における取組みの強化
1.ガバナンスの強化
学長がその権限(予算配分権や人事権等)を最大限に行使し、強いリーダーシップで改革を進めることができる体制を構築することが必要である。そのためには、学長の選定にあたり、外部の有識者を選定委員に加えるなど、大学内部の人材のみならず意欲と能力のある外部の人材を学長に登用できる仕組みを整備することが重要である。併せて、大学・大学院の事務局員に企業経験のある人材を積極的に採用し、事務局体制の強化を図ることも重要である。 

2.イノベーション人材の育成強化
大学・大学院には、イノベーション創出の基盤となる優秀な人材を育成する役割が求められる。具体的には、グローバルに活躍できるイノベーション人材の育成強化(グローバル水準のカリキュラムの作成、海外留学支援の拡充、海外からの優秀な人材の受入れ促進及び長期滞在に向けた環境整備等)や、学生のキャリアパスの多様化に向けたインターンシップの推進、一度企業等に就職した人が学び直すための社会人コースの充実等が必要である。 

3.イノベーションに向けた研究開発の促進
新たな知の発見に資する純粋な基礎研究のみならず、イノベーション創出を見据えた目的基礎研究や、実用化に向けた研究開発の強化が重要であり、こうした研究開発を推進する研究者を大学・大学院において積極的に評価し処遇する仕組みを整備すべきである。併せて、企業での経験を教授就任の要件とするなど、大学・大学院と企業の研究人材の交流を促進することも必要である。 

4.科学技術予算及び研究開発促進税制の拡充
わが国の政府研究開発投資対GDP比や、研究開発投資全体に占める政府負担の割合は、他国に比べて見劣りするのが現状である#3。また近年、企業の研究開発投資も大きく落ち込んでいる。こうした状況を踏まえ、政府研究開発投資の拡充及び企業の研究開発投資の促進に資する税制の整備を図るべきである。 

(1)科学技術予算の拡充 
わが国の科学技術力を強化し、イノベーションを強力に推進するためには、これを支える研究開発投資を拡充することが不可欠である。第4期科学技術基本計画において掲げられた「政府研究開発投資対GDP比1%、総額約25兆円」の予算目標を確実に達成すべきである。その際、科学技術振興費#4の拡充を図ることが必要である。 

(2)研究開発促進税制の拡充 
2012年度から研究開発促進税制が縮減され、研究開発に力を入れる企業の負担が重くなった。成長の源泉であるイノベーションの加速に向け、研究開発促進税制における総額型の税額控除限度額を法人税額の20%から30%へと再び拡充するとともに、控除限度超過額の繰越期間を1年から3年へと延長すべきである。 

以上 

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1.30の最先端の研究課題に対し、3~5年に渡り研究開発資金を提供する仕組み。2009年度の補正予算で創設(総額1000億円)され、2013年度に終了する予定。ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥・京都大学教授のiPS細胞の研究も同プログラムの支援を受けている。

2.資源配分主体が広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。

3.わが国の政府研究開発投資対GDP比は0.69%(2010年度)であるのに対し、韓国は1.0%(2010年度)、米国は0.91%(2009年度)、フランスは0.89%(2010年度)、ドイツは0.84%(2009年度)となっている。またわが国の研究開発投資全体に占める政府負担割合は19.3%(2010年度)であるのに対し、フランスは39.7%(2010年度)、米国は31.3%(2009年度)、ドイツは29.7%(2009年度)、韓国は26.7%(2010年度)となっている。

4.研究開発に必要な補助金・交付金・委託金等、科学技術の振興を目的とする経費。

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