大学新設不認可 「なぜ」の説明が必要だ『毎日新聞』社説2012年11月3日付

『毎日新聞』社説2012年11月3日付

大学新設不認可 「なぜ」の説明が必要だ

 田中真紀子文部科学相が大学設置・学校法人審議会の答申を覆し、3大学の新設を不認可とした。大学側に不備があるのではなく、「政策判断」だという。極めて異例だ。

 なぜか。

 これまで大学が多くつくられ、教育の質が低下し、それが就職難にもつながっている。そう文科相は論じる。そして長く変わらないできた審議会制度のあり方を見直し、当面は新設を認めないという。

 だがその論法が、具体的な欠格理由なしに不認可とされた3大学に通じるだろうか。来春の開学に向け準備に当たってきた当事者や入学志望者にはたまったものではあるまい。個別に「なぜ」の説明が必要だ。

 政策として当面、大学新設を見送るというのなら、本来、審議会に諮問する前の段階で明示するのが手順というものだろう。

 文科相が「50年後、100年後の将来のため」と説くにしては、あまりに唐突の感がぬぐえず、無用な混乱を引き起こす懸念もある。

 大学設置基準は1990年代初め、規制緩和の流れをくんで大綱化(緩和)された。大学は増え、大学進学率も上昇し、5割を超えた。

 一方で少子高齢化は予想以上に進み、総定員枠に総志願者数がほぼ収まる「全入」時代に。今年度入学では私立大の4割以上で定員割れを起こしている。

 経営難の大学も現れた。先月は創造学園大学などを運営する堀越学園(群馬県)が学生が在籍するまま年度末までに文科相の「解散命令」を受ける異例事態になった。

 文科相は今回そうした状況にも触れ、大学設置基準厳格化を挙げる。

 大学の「質」を支えるためだが、開学のハードルを今より高くするだけで改善することではない。数が多いから学力が落ちるという論法なら、数を絞れば学力も上がるということになるが、一面的だろう。

 むしろ、入学試験のあり方や見極める学力、高校・大学の学力の接続法、資格試験の導入案など、中央教育審議会などで積み上げられてきた論議を深めたい。

 また先進国の中で日本の大学数が突出しているわけではない。

 ただ「生涯学習」の視点からみると、大学はまだ機能を十分果たしているとは言い難い。さまざまな学習、研修にキャンパスが開かれるなど「学び直し」と能力・教養向上の場として活用されるのでなければ、今の数でも大学はさらに“淘汰(とうた)”を余儀なくされる恐れはある。

 そうした論議やコンセンサスを広く高めるにしても、今回の文科相のやり方は、拙速だったといわざるをえない。

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