教員資格 「大学院修了」は必須か『北海道新聞』社説2012年9月12日付

『北海道新聞』社説2012年9月12日付

教員資格 「大学院修了」は必須か

 中央教育審議会(中教審)は、正規の学校教員は原則、大学院修了を要件とするよう、文部科学相に答申した。

 新卒者の免許を二つに分け、1~2年の大学院修了者は「一般免許」、大卒は「基礎免許」とする方向だ。基礎免許は授業補助にとどめる案も出ている。

 学部卒で教員になり、その後、修士課程に進む選択肢も示した。

 大学院は教育実習主体で指導力を養う。

 答申に従えば、教育現場や教員志望者の負担が格段に大きくなるのは明らかだ。大学院修了を必須とすることには、慎重な論議を求めたい。

 答申が言うように、グローバル化や情報化に伴い、教員が身につけるべき知識は高度で複雑になっている。いじめへの対処など生徒指導も難しさを増している。

 とはいえ、諸問題の主たる原因を、教員の専門性不足とみなすのは短絡的すぎる。学部だけでは時代に即した養成が「困難」とする根拠も明確に伝わってこない。

 答申の核心は、教職を高度専門職に位置づけたところにある。6年制で養成される医師や薬剤師と肩を並べることを意識している。

 教員が授業や学級運営で必要とする知識は、医学部や薬学部で学ぶ専門性とは質的に異なる。特に学級運営や生徒指導は、教壇に立ってから学ぶ部分が多いはずだ。

 中教審は、教職大学院が成果を上げているとし、それも教員養成期間を延長する理由にしている。

 しかし、2008年度に創設された教職大学院は12年度、全国25校のうち半数を超える13校で定員割れを起こした。

 修了しても待遇上のメリットがない、何を学ぶかが不明瞭、大学院にふさわしい中身が伴っていない―など、敬遠の理由はいくつかある。

 教職大学院が活用されていないのはなぜか。文科省は、まずそれを検証しなければならない。

 教員志望者の側に立っても、大学院までの延長には問題がある。

 現状でも、学生の多くが学費の負担を抱えている。大学院までとなれば、さらなる負担増から教員になる夢を断念する学生も増えるだろう。

 しかも、教職に就くには、都道府県や政令指定都市が行う教員採用試験のハードルもある。経済支援抜きの論議は、志望者の減少、ひいては質の低下を招きかねない。

 中教審では志望者にさらに国家試験を課す案も議題に上った。結局、結論は出ず、中長期的課題としたが、国にそこまでの権限を与える必要性があるのだろうか。

 制度設計を慎重に行わなければ、教員の門戸を狭めかねない。

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