予算執行抑制 歳出減の努力忘れるな『中国新聞』社説2012年9月5日付

『中国新聞』社説2012年9月5日付

予算執行抑制 歳出減の努力忘れるな

 戦後は例のない異常な事態である。38兆円余りの赤字国債を認める「公債発行特例法案」の今国会成立が絶望的になったのを受け、政府が予算執行の抑制という荒業に出た。

 このままいけば11月には財源が枯渇してしまう、という理由である。まず影響を受けたのが自治体。きのう予定されていた4兆1千億円の地方交付税の支給が見送られた。

 法案審議は、10月の臨時国会で仕切り直しとなりそうだ。国民生活の混乱を招かぬよう、与野党が頭を冷やして成立へ歩み寄ってもらいたい。

 それにとどまらず、過去最大に水膨れした予算を少しでも削るきっかけにしてはどうか。

 予算の4割を赤字国債で賄う現状では特例法案は政権のアキレスけんといえる。ねじれ国会の下、菅直人前首相は成立と引き換えに退陣に追い込まれた。

 消費増税で「民自公」が協力した今年。民主党側は何とかなると高をくくっていた節がある。ところが衆院解散をめぐって対立が深まり、自民党などが野田佳彦首相を追い詰める最大のカードとしている。

 年度初めから5カ月が過ぎた今、国民からすれば見苦しく映る。いつまでも駆け引きの道具にすることは許されまい。

 一方で執行抑制に踏み切った政権の姿勢もほめられたものではない。このままなら大変なことになるぞと、野党をけん制する思惑も透けて見えるからだ。

 とりあえず対象とするのは地方交付税のほか、国立大学の運営費交付金、各府省の会議費や出張費などのようだ。中央官庁の腹がさほど痛まない支出を安易に抑えた印象は拭えない。

 とりわけ交付税の支出を遅らせたのはいかがなものか。自治を支えるために財源を再配分する役割に、国会混乱のしわ寄せを及ぼすべきではなかろう。

 財政基盤の弱い市町村分は月内にも予定額が出るというが、道府県については当面、圧縮していく方向という。場合によっては自治体の財政運営に支障が出ることも考えられる。

 財源がないなら差し止めるべき支出はほかにもあるはずだ。

 今回の事態の責任を負うのは何より国会である。「お手盛り」の象徴ともいわれる政党交付金は今のままでいいのか。

 年間総額320億円のうち4分の1が10月に支給される予定だが、与党から「凍結を」との声がある。延期ではなく一気に削減する姿勢も求められよう。

 各府省の事業予算も見直せないものか。不要不急のものが本当にないか早急に点検してもらいたい。仮に特例法案が無事に通っても、その分は減額補正して歳出を減らす方法もある。

 幹部職員が公然とグリーン車を使える。そんな取り決めもこの際、改めるべきだろう。

 赤字国債に建設国債を加えて44兆円。政権交代後、税収を上回る借金を毎年続けてきたのが民主政権だ。景気低迷という側面はあるにせよ、そのこと自体が異常と言わざるを得ない。

 来年度予算の概算要求が、今週末に締め切られる。基本的な歳入構造は変わらないというのに、またも公共事業の大盤振る舞いを懸念する声がある。

 消費増税で国民に負担を求めようとする野田政権。危機意識がこのままなら、理解など得られるはずもない。

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