『朝日新聞』山上浩二郎の大学取れたて便2012年3月8日付
教育の質向上は学修時間の増加から 中教審大学教育部会
中教審大学教育部会に提出された資料「学士課程教育の質的転換への好循環の確立」で示されたイメージ図。「先の見えない今の時代を生きる若者や学生が『生涯学び続け、どんな環境でも勝負できる能力』をやしない、技術や技能を身に付けることができる大学へ」とうたっている
これまで何度かこのコラムで取り上げた中央教育審議会大学教育部会の報告素案が3月7日の会議に提出された。大きな柱は「大学教育の質を上げるには、まず学修時間を増やして学生の主体的な学びを確立すること」となった。
最初に言葉の問題から。「学修」は知識や技能を学び修める(身につける)こと、「学習」は学び習うこと、と複数の辞書にある。要するに身につけるかどうかが「学修」と「学習」の分かれ目のようだ。この回では中教審にならって学修という言葉を使いたい。
■時間増で「主体的学び」促す
素案では、これまで紹介してきたように米国と比べて日本の学生の学修時間がかなり少ないことが指摘された。卒業要件となっている単位から想定された学修 時間が1日8時間程度なのに対して「実際には4.6時間とのデータもある」と記述。さらに「授業計画(シラバス)をつくっている大学は約96%だが、予習 などの具体的な準備学修内容を示しているのは36%、標準学修時間の目安を示しているのは7%」と学生に対する授業計画が充実していないことも書き込まれ た。
この現実認識をもとに、素案は大学の教育改革の柱として学修時間を中心にすえた。量はもちろん、学生が自主的に予習・復習をする「主体的な学び」の確立 を目標とした。同時に、学修時間の増加・確保を「カリキュラム全体でどんな能力を育てようとしているか」「各科目がどう連携・関係しているか」「主体的な 学びを引き出す効果的な教育方法や成績評価とは」「教員にはどんな教育力が必要か」「カリキュラム編成・改善を全学的観点から行えるマネジメントとは何 か」といったもろもろの課題の解決、教育の質的転換への始点として位置づけた。
そのためには実態把握が必要だ。素案では関係機関が学生の学修時間を把握したり、大学の優れた取り組みを紹介したりすることなどを求め、その取り組みを資源(予算など)配分の参考資料とするよう提案している。
■制度化への道は不透明
これらを受けた具体策として、素案では授業科目のナンバリング、ティーチング・アシスタントなど学修支援環境の充実を挙げた。また、学生の学修成果の把 握としてアセスメントテスト、学修行動調査などの活用を例示。さらに、大学としての成果を情報発信し他大学と比較できるよう「大学ポートレート」(仮称) の早期整備も強調した。
総じて今回の素案は、これまでの議論をもとに、学修時間を軸にしながら教育を向上させる取り組みを進めようという切り口になっている。しかし、いい取り 組みをした大学に予算をつけることで改革への誘導をねらっているのは窺えるが、どの程度制度として進めるのかはまだわからない。どちらかといえば、大学へ のメッセージという色彩が強い。
素案は3月末に正式報告となる。学修時間を増やすにしても、学生や教員、カリキュラム体系の調査を大学自身が実施することが必要になるうえ、その有効性の検証も同時にしていかなければならない。学修時間を軸とする教育改革は緒に就いたばかりだ。