『毎日新聞』2012年3月7日付
退職給付:国家公務員 民間より400万円上回る…人事院
人事院は7日、退職給付(退職金と公的年金への上乗せ分)の官民格差に関する調査結果を公表した。国家公務員の平均が2950万3000円だったのに対し、民間は2547万7000円で、官が民を約400万円上回った。政権交代前の06年調査では民間が約20万円多かったが、08年秋のリーマン・ショックをはさみ状況は逆転した。政府は官の退職手当引き下げを検討するとともに、公務員の共済年金に上乗せされる「職域加算」の見直しに着手する。
退職給付を平均額でみると、民間は退職金1041万5000円(06年1445万6000円)、企業年金1506万3000円(同1534万6000円)の計2547万7000円(同2980万2000円)。06年より14.5%、432万5000円減った。
一方、国家公務員は退職手当2707万1000円(同2738万6000円)、職域加算243万3000円(同221万4000円)。計2950万3000円(同2960万1000円)と高止まりし、民を402万6000円(13.7%)上回った。
共済年金は会社員の厚生年金より保険料が低いのに月額2万円程度の職域加算を受け取れる。一方、厚生年金に上乗せされる企業年金は別途掛け金が必要なうえ制度自体がない事業所も多い。調査は税と社会保障の一体改革案に盛り込んだ厚生、共済両年金の一元化に際し、職域加算の取り扱いを決める参考材料として総務、財務両省が人事院に要請し、昨年秋に実施された。
調査結果に対し人事院は官民格差の解消が必要とする一方、年金への加算制度は維持しつつ退職給付全体を圧縮するのが望ましいとの考えを示した。岡田克也副総理らは職域加算への公費投入廃止を主張している。民間側の調査は正社員50人以上の企業(約3万5700社)のうち6314社を対象にし、3614社(回答率57.2%)から回答を得た。調べたのは勤続20年以上の事務・技術系社員。全体の5.4%には退職給付がなく、平均に含めていない。官民とも年金加算部分は平均余命まで生きた場合の金額。【山田夢留】
◇職域加算の見直しが本格化へ
退職給付の官民比較調査を受け、年金の「官優遇」の象徴、職域加算の見直しが本格化する。老後の資金は国家公務員が民間より400万円以上手厚いと分かり、議論は加速しそうだ。だが、民主党内も自治労系議員は職域加算の実質的な存続を求めるなど意見が割れており、厚生、共済両年金一元化法案の国会提出は4月以降にずれ込む見通しとなっている。
年金一元化の議論で、職域加算の扱いは最大の焦点だ。税と社会保障の一体改革大綱で政府は、企業年金同様、別に掛け金を払う必要がある仕組みに変えることを検討するとしている。
ただし、企業年金に準じた場合、公務員の上乗せ部分にも「事業主負担」として国や地方の財政支出が生じかねない。民主党厚生労働部門会議の年金作業チーム座長、和田隆志衆院議員は「国民の理解が得られるかどうかだ」と指摘し、新たな加算部分は本人の掛け金だけで運営すべきだとの考えを示す。
それでも官側には退職手当の減額で乗り切り、追加負担なしに加算がある制度を維持したい、との意向もある。【鈴木直】