「宇宙政策」 平和利用原則は忘れるな『西日本新聞』社説2012/01/22付

『西日本新聞』社説2012/01/22付

「宇宙政策」 平和利用原則は忘れるな

 政府は、宇宙航空研究開発機構(宇宙機構)設置法から、宇宙利用を「平和目的」に限るとした規定を削除する改正案を通常国会に提出する方針だ。

 高度な性能を持つ人工衛星による安全保障情報収集の重要性が高まっていることや、航空宇宙産業の国際的な技術開発競争、宇宙6 件ビジネス競争に後れを取らないための法改正だという。

 その趣旨は理解できる。宇宙利用による先端技術開発や宇宙6 件産業振興による宇宙ビジネスの国際競争力強化は、技術立国を目指す日本が取るべき方向として、間違っていない。

 地球環境観測、気象観測、資源探査、通信・測位システムなど宇宙開発に伴う技術や情報の利用は、産業や科学、安全保障だけでなく、社会や日常生活の面でも年々、重要性を増している。

 昨年の東日本大震災の被害状況把握や救援・復旧に、日米の情報収集衛星や、通信・測位システム機能を持つ衛星が威力を発揮したのは、記憶に新しい。

 高精度で多様な機能を持つ衛星による情報収集は、地球規模で広がる環境汚染や環境破壊、災害、テロなどの防止に役立ち、国際貢献にもつながる。

 そうした衛星機能の多くが、安全保障上の要請や軍事目的で開発されてきたのも事実である。

 ただ今回、宇宙機構設置法から宇宙利用を「平和目的」とした規定を削除することの意味と、もたらす影響には留意しておく必要がある。

 法改正によって、日本の宇宙航空分野の基礎研究から技術開発・利用までを一貫して行う独立行政法人機構が、今後は「防衛目的」の宇宙技術開発にも関与することになる。

 日本の宇宙政策は2008年の宇宙基本法制定によって、非軍事分野に限定していた「研究開発中心」から、宇宙で得た情報の「利用重視」に転換した。

 基本法は14条に「国の安全保障に資する宇宙開発を推進する」と明記し、宇宙利用を平和目的に限定して1969年の国会決議によって事実上禁じてきた「防衛目的の宇宙利用」に道を開いた。

 政府は、これによって自衛隊が自前の情報収集衛星を運用できるようになっただけでなく、ミサイル防衛(MD)に欠かせない早期警戒衛星の開発・保有も法解釈上は可能だという。

 基本法制定に続く宇宙機構設置法の改正で、宇宙政策の「非軍事のたが」は外れることになる。だからといって「平和利用の原則」を捨ててしまうのは、平和憲法を持つ国としていかがなものか。

 基本法第1条は宇宙開発利用は「憲法の平和主義の理念」を踏まえて行うと明記している。「防衛目的」を理由にした宇宙の軍事利用拡大に歯止めをかけたものと解すべきだろう。

 「平和目的に限る」とした制約は消えても、宇宙6 件開発は平和利用が原則であることを忘れてはなるまい。

 

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