研究者と政策―寄付公開し信頼高めよ『朝日新聞』社説2012年2月8日付

『朝日新聞』社説2012年2月8日付

研究者と政策―寄付公開し信頼高めよ

 原子力の安全や政策づくりにかかわる大学教授らが、原発メーカーや電力会社から多くの寄付を受けていた。このような経済的な関係は公表したうえで働いてもらう仕組みが必要だ。

 専門家としての知識を期待されて選ばれた人たちである。そういう学識経験者には、何より中立性が求められる。業界との関係が疑われるようなことがあってはならない。

 内閣府の原子力委員会や原子力安全委員会、あるいはその下に置かれた委員会などで審議に当たる専門家の責任は重い。

 そのような任につくときは、いつ、どこから、どんな寄付や報酬を受けたのかを、明らかにして透明性を確保することが、国民から信頼されるために欠かせない。

 委員たちは、審査や委員会での発言が「寄付には左右されない」と説明しているのだから、情報開示に問題はないはずだ。国民に判断してもらう材料を提供することにもなる。

 同じような問題は現代社会の随所にある。

 原発事故から将来のエネルギー政策、医療、食品の安全まで直面する多くの課題に、最新の科学知識が欠かせない。政策を決めるのは政治家や行政であっても、その基礎に科学的な深い判断が必要だ。

 そこに、大学の研究者らの力が求められる。学識とともに見識があり、特定の業界との疑いを持たれない研究者が望ましいのはもちろんだ。

 ところが、大学の研究は今、民間からの研究費なしでは成り立たない。大学への交付金は年々減り、研究者は外部から研究資金を得て、産業界とも連携するよう求められている。

 そうした現実を踏まえたうえで、研究の成果をあげつつ、発言の中立性をどう保ち、また、政府に助言し、政策決定にかかわる研究者をどう選ぶか。

 製薬企業と大学病院などの医師とのつながりが、しばしば問題になったのが医療分野だ。

 こうした分野での透明性を確保するルールづくりは、米国などと比べて日本では遅れていた。昨年ようやく、日本医学会や日本製薬工業協会が医師への研究資金や寄付金などを公開する指針を公表した。

 研究費など、企業からの経済的支援の透明性は、ほかの分野でも大いに高めるべきだ。そのうえで協力を進め、信用を保ったうえで成果を出せばいい。

 政府は政策決定などにかかわる委員を選ぶに当たり、関連業界との関係や、その情報開示に関するルールをつくるべきだ。

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