『河北新報』社説2012年1月12日付
東日本大震災 大学の連携/英知集めて復興に広がりを
地域の復興を担う人材の育成に、高等教育機関が果たす役割は大きい。そうした認識を共有する東北の各大学が連携して教育事業を始めるケースが相次いでいる。
宮城県内の17の大学・短大などでつくる「学都仙台コンソーシアム」は復興大学というセンター組織を発足させ、4月から役割分担して講義を行う。
山形、福島、宮城教育の3大学は、学生に震災を乗り越えられる力量を身に付けさせる新しい研究に共同で取り組む。
これまで防災教育は各地で行われていたが、復興をテーマとした分野は取り上げられてこなかった。各校とも震災復興の過程を長い目で捉え、有為な若者が東北に定着し、活躍することを目指している。
ボランティアなどに励む学生に基礎知識と理論的な考察の機会を与えることにもなり、事業の意義は大きい。活発な議論を通じ、成果のあるものに仕上げてもらいたい。
仙台コンソーシアムは東北工大を代表校に四つの事業を行う。「人材育成コース」では、復興のための政治学、社会学、科学技術など6科目の講義を実施する。1年間で全科目を取得すれば、所属大学で単位がもらえる。
学生は30人程度を想定し、JR仙台駅近くのオフィスビルで週末と夏季休暇などに集中講義を行うという。
「教育支援コース」は宮教大の担当。震災で親を失った子どもを支える教育、避難生活で懸念される学力低下への対応、疲弊した教員に対するケアなどが期待されている。
このほか、景観に配慮した市街地形成といったカリキュラムも設けた。専門知識を生かした社会貢献を果たしてほしい。事業費6800万円は国からの補助金を活用した。
一方、山形大など3大学による共同研究は、「災害復興学」の確立をうたう。共通の教材を使い、有事に冷静、的確に対処できる知識と精神力、有効な支援策の構築を掲げた。
先月中旬、「3学長の決意表明」と銘打った福島大での記者会見で、各学長は「住宅や産業だけでなく、人間の持つ能力の開発も重要だ」などと人材育成への思いを熱く語った。
被災地に復興ステーションを設置する計画を個別に持つ大学もある。宮城大は近く、宮城県南三陸町の施設を利用して、支援活動の拠点をつくる。
本年度から5年間、ボランティアが泊まる農家民宿への支援、間伐材を活用したまちづくりに取り組むという。
学生の個性も得意分野も異なる大学が、新たな共通テーマに挑戦するのは困難を伴うかもしれないが、知を結集した斬新な切り口を望みたい。
規模の大きい東北大は、全学的な組織「災害復興新生研究機構」を創設した。海洋の領域ではアワビやナマコの生態系の調査、陸上養殖などを模索中だ。
復旧、復興の予算を学術研究の実践に使うことは将来、有効な見返りが得られるだろう。各校の奮闘にエールを送りたい。