吉田学長「地域に高度先端医療提供」 知を拓く 旭川医科大(5)『日本経済新聞』北海道版2011年12月10日付

『日本経済新聞』北海道版2011年12月10日付

吉田学長「地域に高度先端医療提供」 知を拓く 旭川医科大(5)

 旭川医大は今年、吉田晃敏学長の2期目がスタートを切った。吉田氏は旭川医大の1期生で、卒業生としては初の学長。今後の任期4年で「強い旭川医大を創る」と語る吉田氏に今後の展望と課題を聞いた。

 ――「強い旭川医大」の具体的イメージは。

 「1期目は『旭川医大の新生』を掲げて様々な施策を行った。今年、文部科学省が示した2004~09年度の業務実績評価では86大学中14位となり、08年の暫定評価の79位から躍進した。今期は教育、研究、病院運営、社会貢献を強化する。そのポイントは優れた人材の育成だ」

 「まず教育を強化する。低学年にグループ担任制を導入し、学習支援や心のケアを充実させる。本学独自の奨学金制度も整備した。学生が安心して勉学に専念できるようにし、志の高い卒業生を大学に残していく」

 「研究面では昨年の脳機能医工学研究センターに続き、今春には教育研究推進センターを新設した。研究者教育から研究テーマの発掘・育成・臨床応用まで対応する組織で、これらを拠点に最先端の研究を進める」

 ――入試改革で「道内枠」を設けたが、学力水準の低下を懸念する声は無かったか。

 「一部にはあったが、心配無用だ。強い旭川医大に向けた教育の強化もそれを杞憂(きゆう)にしてくれるだろう。それより、例えば100人教育しても80人が北海道を去ってしまえば20点の“赤点”だ。卒業生を道内に残すことに全力を注ぐ」

 ――北大医学部、札幌医大との比較で、旭川医大の強みと弱みは。

 「中規模の単科国立大であることが強みだ。学長・執行部の判断できめ細かな企画を速やかに実行できる。例えば、この冬の教員のボーナスには(10年度の)診療報酬改定の増収分を当てる形で特別手当を上乗せした。今後もこうしたスピード感を重視していきたい。一方、歴史が浅く卒業生の層も『これから』なのが弱点ともいえる」

 ――旭川医大の果たすべき役割とは。

 「全国に医師をばらまくのではなく、北海道に貢献する医師を育て、高度先端医療を地域に確実に提供していくことだ。地域医療対策とされている総合医制度は北海道には必ずしも適さない。広大な北海道では、地域の基幹病院で患者の処置をある程度完結させる必要がある。高度医療を担える専門医を地域に循環させることこそ重要だ」

 「その意味で、生体肝移植に成功したことは大きい。これを機に、高度医療を地域に提供する姿勢を一層強めていく」

 ――遠隔医療の今後の展開は。

 「ソフトバンクなどと組み、遠隔医療の技術は完成させた。今や被災地でも即座に使える状態だ。今後は『どこで』『だれが』『どう』使うかが課題だ。推進母体と予算を含めた推進力が必要で、社会インフラとして(国も関与する中で)道筋を付けていくべきだ」

▼キャリア形成重要に

 「地域医療の担い手育成」に大きくかじを切った旭川医大だが、今後は実際に“新たな担い手たち”が各地に散ってゆく時代を迎える。大学を挙げて彼らを支えていく仕組み作りも急務だ。

 まず、最先端の地元病院と連携し、的確・効率的に研修医を派遣するシステムを整備する必要がある。研修中の支援体制を築くほか、一定期間地方で勤務した後に改めて大学に戻って研究できるようにするなど様々なキャリア形成の道を提供していくことも大切だ。

 研修中・研修後のきめ細かいサポート体制を整えることで、その後の卒業生たちも不安なく巣立てるようになる。地域と大学が連携し、医師をうまく“循環”させる仕組みが整った時、初めて旭川医大の「新たな地域医療の担い手育成システム」が完成する。

=おわり

 この連載は増渕稔、島田貴司が担当しました。

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